* ページ13
.
天界との境界線、静寂が支配している不可侵の森。
その中にある、白い幹に黒の葉を茂らせた大きな木の上に登り、背中を預ける。
待ち人は、思い焦がれたあの人は、今日も来るのだろうか。
そんな心配もすぐに消えた。カサカサと音をたてて彼女はやってきた。
神とも思える神々しさを持った俺には眩しすぎる
「天界のトップがこんなとこ1人できてえぇんか?」
「そちらこそ、魔界の四天王とも呼ばれる実力者が1人で聖王に会いに来ていいのですか。」
「お互い様やろ。それに、俺のほうは俺がルールやからえぇの。」
木の上と木の下。その距離およそ1m。
互いに互いの魔力で苦しまない、ぎりぎりの距離。
これ以上近づいてしまえば、相反する魔力が互いを傷つけてしまうから。
「なぁ、そっちもそろそろ総攻撃とか言うとるん?」
「そっちも、ということはそちらもですか。」
「…まぁ、来るなら、迎え撃たんとな。」
「そう、ですよね。」
「そんな泣きそうな声せんといてや。」
叶うのならば、抱きしめてキスをして、撫でて安心させてあげたいが
それは叶わない。この、気持ちはおそらく俺だけが抱いているものやから。
……そう思っておかないと、彼女を傷つけてしまいそうだから。
そもそも俺らは敵対している関係。
こうやって秘密に会っているということも、ばれたら大変なことになる。
聖王という、天界の頂点に立つ存在が。
まさか、魔界の四天王に会っているなんてことが彼女の仲間に知れたら。
……その時はその時で、堕としてしまえばいいとか邪な考えは浮かぶが。
「この争いが終わることはないのでしょうか…。」
「ないやろ、俺らはそれこそ生まれたときから互いに互いを害する存在や。」
現にこの距離でも、彼女の聖なる力は俺の肌に刺すような痛みを与えてきている。
同じように俺の力も、どう抑えたとしても彼女に痛みを与えてしまうのだろう。
それなのに、俺も、彼女もこの場所へ通う。
それは、互いに決して宿してはいけない感情のためにだろうか。
この感情を宿してしまうのが、運命で決まっていたことならば……
「運命は、残酷やな。」
「え?」
「争いを止めるなら…俺らがもう会えないようにこの境界線を封じるしかないなんて。」
「ここを……封印。」
その後、特に話すこともないままで。
少しの痛みと、心地よい沈黙が続いた。
彼女の姿を、忘れないように。目に焼き付けたまま。
19人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ