* ページ10
「──あ、A」
「あら、き…」
下駄箱でスマホをいじっていたら、あらきに声をかけられる。いつものニコニコ笑顔で私の手を取り、「帰ろうぜ」と言葉をかけた。
(こういうのに弱いのよね…)
あらきの不意打ちにはいつもやられてしまう。笑顔だって、仕草だって、声だって。
「…A?」
「へっ!?」
「帰らねーの?」
「か、帰るわよ」
「…足、よく見て」
足?と思い下元を見る。なんと上履きを履かずに昇降口を出ようとしたのだ。
「ぶふっ……」
「笑ってんじゃないわよ!!」
★☆★☆★
Aってたまに抜けてるんだよな…。可愛いところ、また見つけた。
「でさー、あいつがヘマして結局全員怒られちまったってわけなんだよ」
「あらきも怒られたの?」
「嗚呼、みっちり怒られた。しかも現国のセンセーに」
「どんまい」と労ってくれる。うわ、可愛い…。惚れるわ、ほんっと……
──その時、ポツリと頭の上に水が落ちてきた。そしてザァーと勢いよく降り出した。
「やっべぇ!!」
「ど、どうすんのあらき!私傘なんて持ってないわよ!?」
「俺も持ってねえよ」
為す術がなかった。クソ、このままじゃ俺もAも風邪ひいちまう。
「どっか雨宿りできる場所…」
──あった!
ちっちゃいベーカリーショップの隣に、これまたちっちゃいバス停があった。
「走るぞ!」
Aの手を引っ張り全速力で走る。体育の授業や持久走大会にも出せない馬力で走り続けた。
「えっ、ちょ、あらき!?」と困り果てているAをお構い無しに走り続けた。ただひたすら走った。
「ふーっ…着いたぁ……」
「はぁっ、はぁっ、……いきなり、走り、出さないでよ…ビックリ、するじゃ、ない」
ゲホゲホと咳き込みながらAはベンチに座る。このベンチは2人で座ってもぎゅうぎゅうになる。はっきり言って狭いけど雨風しのげるんだったら、文句は言えない。
「っ……」
Aはガタガタと震える。このままだと低体温症になりかねない。
「だ、大丈夫か?」
「さむ、い」
顔も真っ青だ。俺は着ていたカーディガンをAに被せる。Aは少し安堵したのか表情が和らいだ。
こんな急に大雨降るか?予報だと今日は一日中ずっと晴れの予報だったのに…。夕立ちとか久々過ぎるだろ。
(………ん?夕立ち?大雨?)
『後ろから抱きしめて×××××って言ったんです。その時のカノジョの顔は忘れられませんね』
……あ。
17人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ