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「A、月見える?」
「うん。綺麗な三日月」
「俺さ、月を見るのが好きだから天月って名前にしたんだよね」
「それぐらい知ってるわ。でもいきなりどうして?」
「ううん!何となく!」
どことなく様子がおかしい気がするが、特に気にかけることは無いだろう。ライブ後の疲労か何かだろう。
「………月が、綺麗ですね」
え?と耳を疑った。思わず彼の方を見やると黙ってそっぽを向いていた。
今、なんと言っただろうか。
月が綺麗ですね、とは前に彼がどういう意味だと問うてきた言葉であるのに。その意味を知って口にしたのだろうか。
それならば、私なりの答えがあるだろう。
小説家である有名な二葉亭四迷が、ツルゲーネフが書いた著書「
作中で男性にアプローチされた女性が「
「……私、死んでもいいわ。今ならその綺麗な月にすんなりと手が届くかもね」
これは、私なりの挑戦状でもある。彼が望む美しい月は、案外すんなり手に入る。私を望んでいるのならば。すぐにその糸を手繰り寄せれば、私はその糸の赴くままに彼の方に傾いて行く。
だから、どうか。
この月が元から綺麗であったと証明して。
「死んでもいいんだね?その月に手が届くんだね?」
ストン、と。
音がした。
夜空とそこに浮かぶ三日月。
青年のように若々しい整った彼の顔。
それが視界いっぱいを占める。
「あ、あま、つき…?」
「手に入るって言ったの、Aでしょ。だから、今だけはこうさせて」
そう言って彼が上から覆い被さる形で私の事を抱き寄せる。
何だ、これ。こんな、夢みたいなこと。
「あの、月が綺麗ですねって、その、」
「最初っから知ってたよ。全部わざと。今日告白するんだって事も、この言葉で告白するって事も、ぜーんぶ決めてた」
「……この状況も?」
「ううん。最初振られると思ってたもん。Aはそんな反応全く俺に見せてくれないし」
だから嬉しいなぁ、と首筋にキスを落とされ私は慌てて彼を押し退ける。
「なっ、何てことしてるの!?」
「別にキスしただけじゃん?」
あまりにも急なことだったので心臓が止まると思ったが、彼の優しげな笑みから安心出来た。
「月は、ずっと前から既に綺麗だったんだね」
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