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あ。
この発言、そしてはいけなかった。と気づくまで。となる前に、私は二人に体をつかまれていた。私の両肩に、二人の冷たい掌が当たっている。氷の冷えと同じくらいの、冷たい体温だ。あの時と、同じ虚ろな瞳と呆然とした姿勢だった。やらかした。あの匂い、あのジュースの中身はあの日に関連することだった。やらかした。二人から笑顔が消えた。かと思えば二人は急に眼は変わらずの虚ろなまま、だが口元は笑顔を張り付けたように。グにゃりと歪む。さっきまでの優しさと笑いはどこへ。私の汗がただ流れた。氷は溶け切った。
私の前にいるのは、誰だ。
「志麻ちゃん、センちゃん……?」
「Aは吸血鬼じゃないよ」
平淡な、抑揚のない声だった。どちらが発しているのかもわからないほど、もしかしたら私の幻聴なのではないかと思うほどに。二人から声が出ているとは思えなかったが、それは、明らかに私へ向けての言葉だった。
「そうだよ、冗談だよ。場が和むと思って言ったんだけど」
「Aがそうだったとしたら、どんなに」
そこで意識は途切れた。
*
「志麻ちゃんセンちゃん聞いて聞いて!」
私、もしかしたら吸血鬼かもしれない!
そんな意気揚々と告げられたところで、血は飲めないし歯は長くないし。そもそも普段から不規則な生活しているだけだし。そんな自己申告をしたところで、自分の思いが揺るがないように。
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