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「.........あの、志麻さん」
「ん?」
優しそうな顔でこちらを向く志麻さんに、ぎゅっと胸を締め付けられる。
嫌だ、このまま夜が明けてしまえばいいのに。
「今日一日、とても楽しかったです。
ありがとうございました」
「こちらこそ、楽しかったわ」
「それで、明日の.........、」
「明日の?」
「いえ、.........月が綺麗ですね、志麻さん」
そういって、手に持った拳銃を志麻さんに構えた。
志麻さんはさして驚いた様子もなく、ああ、と一言漏らした。
「Aさんが『魔女』なんは、本当なんや。
.........俺がこの前仕事でトチったからやろ」
殺さんでもええやん、と志麻さんは諦めたように笑っている。
「あなたが情報屋をしていたなんて、思いもよりませんでした。随分上手に化けていたんですね」
「まあなあ、そうじゃないとやっていかれへんし。『魔女』さんも一般人のフリ、完璧やったやん」
「っ、その名前で、呼ばないで.........!」
銃を持つ手が震える。
目からも透明の血液が流れてきた。
それを見て志麻さんはなんで泣いてるん、と笑う。
「だって、.........!!」
「Aさん、俺、死んでもええで」
告げられたその言葉にまた涙が溢れ出る。
志麻さんはまたゆるりと笑うと、自身の懐を漁って私が今手にしているものと同じものを取り出して、それを私に向けた。
「俺も今日、死ぬつもりでここ来てんねん、 やから頼むわ」
_______________一緒に、死のう。
「.........はいッ、.........!」
ありがとな、と志麻さんは笑う。
距離を縮めて、お互いの胸に銃を突き付けた。
確実に当たる、ゼロ距離。
目を合わせて、一瞬だけ、口付けをした。
「来世は幸せになれるとええなあ」
「私たちが行くのは地獄ですよ」
「それもそうやんな、じゃあ地獄でまた」
「ええ、また」
_______________今宵、月の下で。
2つの銃声音が響いた。
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