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『魔女』。
どんな手段を使ってでも任務を遂行し、その爪痕は残さない。
魔女の仕業であることは分かるのに、当の本人が何者なのかは分からない。
.........らしい。
らしいというのは、私はあまり自分の評価には興味が無いから。
捕まらない、その一点に集中していたらいつの間にかそんな通り名がついていた。
身寄りも無くすることも無く、何でも屋のようなものをしていたら殺ししかすることがなかったってだけ。
昨日の男は何かの会社の社長で、社員へのセクハラパワハラに耐えられない、という理由で依頼が入った。
そんなことで殺すのね、とも思うけれど相手の事情に興味はない。
.........けれど、次は違う。
次の、次のターゲットは。
私が殺さなければならない相手は。
それは、その人は
私が恋い慕ってしまった相手。
絶対に殺したくなかった相手。
ああ、なんてこと。
どうやって殺すかなんて、考えたくもない。
..................
.............................................
..................ああ、行かなければ。
｢いらっしゃいませ｣
いつも通りの心地よい音にいつも通りの店主の声。
いつもなら安心するけど、今は私の胸をヂクヂクと突き刺してくるものにしかならない。
｢Aさん、疲れていますか？｣
｢え？｣
｢顔色が良くないです。それに、今日はお越しになるのが遅かったですよ、何かありましたか？｣
純粋に質問をしてくる志麻さんの顔を見られない。
いっそ言ってしまおうかと思ってここに来たけど、やっぱり言えない。
少し考え事です、と返した。
｢そんなに悩む程の、ですか？｣
｢.........女には考えなきゃいけないことがあるんです｣
いたずらっぽくそう言うと、志麻さんも察してくれたのかそうなんですか？と笑ってくれた。
志麻さんのこういう所が好きなのだ。
好きなことを再確認すると同時にまた胸がぐりぐりと抉られているような気持ちになる。
沈んだ気持ちでテーブルを眺めているとお待たせしました、とコトリと音を立ててカップが置かれた。
｢志麻さん、これ｣
｢お疲れのようなので、ルイボスティーです。お代は頂戴しません｣
なので、また明日いつもの元気なAさんを見せてください、と志麻さんは優しく笑った。
そう、明日が志麻さんとお出かけをする日。
いつまでもくよくよしていられない。
ありがとうございます、と微笑んでルイボスティーを口に運んだ。
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