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家に帰ってから、まずパソコンを開く。
このあとすぐ仕事なので次の仕事のチェックだけする。
一通メールが入っていて、それを開く。
名前、職業、性別、顔写真まで見て、ぴたりと止まる。
.........この人は。
目を凝らしてみても何も変わらない。
.........ああ、そんなことって。
未だに動揺を隠せないけれど仕事なので了解のメールを送り返し、別の仕事の準備に取り掛かる。
クローゼットから、真っ黒のドレスと金髪のウィッグを引っ張り出した。
今日私が繰り出したのは、とあるパーティ会場。招待状を偽装して上手く潜り込んだ。
ボーイからワインをもらって、その辺の男と話しながらあたりを見渡す。
.........いた。
怪しまれないように自然に近付き、ターゲットのすぐ側を通り過ぎて立ち止まった。
「こんにちは、お嬢さん」
かかった。
男の単純さに呆れるけれど都合がいい。振り返って男を見た。
「何かお探しですか?」
「ええ、連れと離れてしまって.........」
「おや、それはそれは.........」
じろじろと私を舐め回すように見る男に嫌悪感を覚える。
.........そりゃ依頼も入るな、という感じだ。
私はあからさまに困った、という顔をして口を開く。
「ここの会場広いですものね、終わるまでに見つけられたら良いのですけど.........」
「では連れの方が見つかるまで、私も一緒にお探ししますよ」
行きましょう、といって私の腰を抱いた男。
手が早くて困るなあ。
そうですね、と微笑んで私も男に寄り添った。
連れてこられたのは会場の上にあるホテル。
分かっていたけどここまで手が早いなんて。
一応 ここはどこですか?と聞いてみる。
「2人でゆっくりできた方がいいでしょう?」
なんだかもう趣旨が変わっているけど頬を染めてそうですね、と返した。
ですが、と付け加えて胸に忍ばせておいた飴を取り出す。
「お兄さん、これを召し上がったら、きっともっと素敵です」
「そうなんですか? では、いただきます」
お兄さんなんて呼ばれ方に気を良くして男がソレを口に入れる。
私はお手洗いに行ってきますね、と言ってそのまま部屋を出た。
きっと今頃あの男は息絶えているのだろう。
簡単だったな、と呟いて会場を後にした。
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