【志麻】今宵、月の下で/花粉 ページ14
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駅前、大通り。
様々な店がひしめきあって、騒がしい。
その、一角。
小道に入って、少し歩いたところにその店はある。
『First Order』。
オーナーの方が1人でひっそりと経営しているその店は、昼はカフェ、夜はバーへと変わる。
客はほぼ常連しかいないような店だ。
私はその常連のひとりだった。
木製のドアを開けて、カランカランと心地いいドアベルが鳴って、店主がこちらを向く。
｢いらっしゃいませ、Aさん｣
.........ああ、今日も素敵だな。
.........この店の店主、月崎志麻さん。
カウンター席の右から2番目、いつもの席に座って彼を盗み見る。
染めているのに傷みを知らない紫色の髪、綺麗なアメジストの瞳。特徴的な泣きぼくろ。いつ見たってその造形は整っている。
まだ若いというのに1人で店を立ち上げて経営している所を見ると、相当な手腕の持ち主だろう。
何を隠そう、私は彼に惚れてしまっている。
｢お待たせしました｣
｢ありがとうございます｣
もう黙っていても珈琲が出てきてしまうくらいには、ここに通いつめていた。そのおかげでよく2人で話し込んでしまうこともある。
一口飲み込んで、美味しいです、と笑えば志麻さんはありがとうございます、と微笑み返してくれた。
店内はゆったりとした空気が流れていて、落ち着く。
私が来るこの時間帯はちょうど人がいない時間で、いつも静かだ。
私が珈琲を飲む音と、志麻さんがカチャカチャとお皿を片付ける音と、優しいBGMが流れている。
｢そういえば.........｣
｢？｣
志麻さんがいきなり声をあげて、何かごそごそとポケットを漁った。
なんだろうと不思議に思っていると、志麻さんが取り出したのは2枚の紙。
にっこりと笑って志麻さんはこう言った。
｢お客様に頂いたのですが、一緒に行くような相手もいないんです、.........行きませんか？｣
映画。
.........そんなの、答えは決まっている。
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