＊ ページ2
｢A、ここのページのこのセリフさ……｣
_____｢月が綺麗ですね｣だなんてベタかもしれない。でも、それでも。それが私たちの形じゃん。もしもね、このお話が小説にされていたとして、そうして『隠れた愛の言葉』ってのがテーマの作品だとしたら一番ありがちだよね。だけれど、告白方法なんて面白い面白くないなんかじゃない。気持ちなの！だから、私はその言葉が嬉しいよ。
｢これがどうしたの？｣
｢何で月が綺麗ですねってのが何で嬉しいの？自分が綺麗だって褒められたら女の子は嬉しいだろうけど…月だよ？えっ？月だよね？｣
｢ふっ、あっははははは！｣
何がなにか分からないと言いたげに自分でも混乱しながらそのまま疑問をぶつけてくる彼に、私は思わず吹き出してしまった。
｢月が綺麗ですね｣と言う愛の定型句を彼は知らないだなんて。馬鹿にするつもりはないのだが、珍しい事もあるものだ、昔の私を見ているみたいだと笑ってしまった。
｢えっ、何で笑うの！？酷くない！？俺真面目に質問してんじゃん！｣
｢お子ちゃまな天月クンは自分で解決しなさいな〜｣
｢はぁ！？馬鹿にしてるでしょ！｣
｢えぇ。もちろん。原案者サマ、後は？これでいい？｣
｢ま、まぁいいけど……｣
きっと、彼の様子からするにまた同じ事を聞いてくるだろう。｢月が綺麗ですねって何！？｣と。
だから、私が彼に｢月が綺麗ですね｣と言ってもその想いは届かなければ晴れることもない、理解されることもないのだ。
だからと言って別の言葉で伝える気も毛頭無いが。
だって、彼にとって私とはそういう関係。
ただ、一緒にゲームをして、小説の原案者と作者と言うだけの関係。それ以上でもそれ以下でも無いのだ。いや、もしかしたらそれ以下と言う関係と捉えられているかもしれないが。
｢この小説が世に出るって思うとワクワクするなぁ…｣
｢私もよ。天月が考えた曲が小説になるもの。私もすっかり天月の曲が大好きだし。…あっ！そうだ！今度ライブに行ってもいい？｣
｢ホント！？来てよ！A呼ぼうと思ってたから！｣
子犬が尻尾を振っているかのような笑みに、私も自然と頬が綻んで行く。
彼の歌声は動画を通して幾度となく聞いてきた。だが、ライブは聞いたことがなければこの肌を通して感じたこともない。
それを今度感じ取れることができるのかと思うと更に嬉しくなって笑みを抑えきれずに居た。
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