我儘と独占欲 ページ43
次の日から、Aは稽古に参加した。
指導する側もやりつつ、自主練をして感覚を掴みなおしていっているらしい。
数日後にはオーディションの日程と範囲が書かれた紙を天馬に渡されていた。
一週間後の日曜日。
範囲は主人公、花の学友の台詞。
『……確か花さん、病気の弟さんがいらっしゃったわよね？駄目よ、神社に行こうなんて思っては』
たったそれだけの台詞を何度も何度も繰り返し練習する。
表情を変えて、言い方を変えて、間の開け方を変えて。
道具がある場合、無い場合。
オーディションがどんな形で行われるのかは分からない。
だからこそ、様々なパターンを演じてみる。
本人は未だ納得できるものができていないらしいけど。
夢見は少し悪くなった気がする。二日か三日に一度は悪夢を見る。
ベッドの隙間から腕を伸ばしてやればいつも遠慮がちに小指だけを握って眠る。
今更遠慮するなって思うけどね。
きっと、オーディションに受かって稽古が始まればこれが毎日になるんだろう。
つまりAにかかるストレスが大きくなるってこと。
支えたいってのは、俺の我儘。
我儘言えって、甘えろって言うのも、俺の我儘。
何だかんだで優しいお前は、ちゃんと俺の我儘聞いてくれるよね？
「……緊張してる？」
「まあ、多少は。オーディションは久しぶりですし、商業演劇は初めてですから」
「でも楽しさの方が勝ってると」
「あはは、分かっちゃいます？」
「楽しそうな顔してるからね」
助手席のAと会話する。
とある建物の横で車を停めた。
いよいよ、Aのオーディションだ。
「とーちゃく。帰りは３時で良かったっけ」
「はい、ありがとうございます」
「……A」
車から降りようとしたAを呼び止める。
「これ、あげる」
「ネックレス……ピンクの、ガーベラ？」
「ガーベラの花言葉って、希望とか、常に前進とからしいから。まあお前がオーディション落ちるとかはないと思うけど、お守りってとこで」
「……ありがとうございます。行ってきます！」
「ん、行ってら」
笑顔で去って行ったAの背中を見送る。
「……愛や美、ね」
『ピンクの』ガーベラの意味、そしてネックレスを贈る意味。
それをお前が知るのは、一体いつだろう。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 630人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
キャラメルドロップ(プロフ) - 暁さん» コメントありがとうございます。酔った至さんは絶対入れたかったので可愛いと云っていただけて嬉しいです。これからもよろしくお願いします (2017年6月23日 21時) (
レス) id: 2ac9dd5393 (このIDを非表示/違反報告)
暁 - 酔った至さん可愛い！！ (2017年6月23日 10時) (レス) id: 76ea3d36a7 (このIDを非表示/違反報告)
キャラメルドロップ(プロフ) - コメントありがとうございます。マイペース更新ですがこれからもよろしくお願いします (2017年6月20日 17時) (レス) id: 2ac9dd5393 (このIDを非表示/違反報告)
優 - 至さん､､、最高！！！ (2017年6月20日 17時) (レス) id: cf1c8d1141 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：キャラメルドロップ | 作成日時：2017年6月12日 2時
