二粒 ページ4
「Aさん、私あれほど言いましたよね?」
「······」
「黙っていないで返事をしたらどうなんです?」
「ああ、言ったな」
忘れたとは言わせない。
そう言わんばかりに笑みを作り、俺の方を向いているのは蟲柱の胡蝶。
顔は笑っているが、目は笑っていない。額にはうっすらと青筋を立てている。
「傷の手当てをしないと、手遅れになる場合だってあるんです。
手当てなんかする必要ない、と意地を張っている場合では無いんですよ?」
そう言って、俺が傷を受けた所を次々と消毒し、包帯を巻いていく。
これだけしっかりしているこいつが、俺より年下なんだからなぁ、といつも感心する。
「それにしても、よく鬼に接触するんですね?まだ捨て身の方法で戦っているんですか?」
「それはもうしていない。鬼が寄ってくるだけだ」
暫くの沈黙の後、てきぱきとした胡蝶の処置によりすぐに手当ては済んだ。
自分でするのと、胡蝶がするのとでは一目瞭然だった。
「はい、終わりましたよ。傷口が開いてしまうので、安静にしていてくださいね」
「ああ······胡蝶、ありがとう」
そう言えば、キョトンとした顔を一瞬した。
確かに自分でも感謝を伝えることはあまりしないのは自覚しているが、そんなに珍しいだろうか。
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