十二粒 ページ14
あの鬼よくもやってくれやがったな、と自分の腕を見ながら毒づいた。
応急処置はしたが、奥深くまで牙が刺さり、皮膚を突き破ったせいか、血が止まらない。
もう既に軽い貧血状態になっている。
急に襲ってきた倦怠感に耐えきれず、側の木にもたれ掛かった。
それにしても何かが可笑しい。服がいつもより大きく感じる。
胸には何かが付いているような感覚がするし、何より頭が後ろに引っ張られている気がする。
だが、今はそんなことを気にしている場合ではない。そんな暇があるならまず止血をしろと言う話だ。力の限り傷口に自分の手を当てて、圧迫する。
「······っ、ふぅ」
しばらくすると少し出血量が少なくなり、倦怠感も大分治まった。
よろよろと立ち上がり、少しずつ歩いていく。いつもよりずっと歩幅が小さく感じられた。
月を反射した水面が綺麗な池に沿って歩いて、ふと水面を覗いた。
「······は、ぁ?」
水面に映っているのはいつもの俺の姿では無かった。
代わりに映っているのは、腰までの長い髪を下ろし、返り血を浴びた女だった。
声も幾分か高くなっていて、自分ではないような気がする。
そしてその時に、やっと鬼の血気術にかかってしまったことを知った。
こんな姿を彼奴らに見られたらどんな反応をされるかなんて目に見えている。
早く帰りたいが、そうもいかないらしい。
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