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足元を蹴って、Aは高く舞い上がり、骸の服を掴んだ。そしてそのままぶん投げて、矢を一本だけ射った。矢が刺さって骸は壁に磔になった。
屋根に着地したと同時に再び蹴る。屋根の皮が少し剥がれた。骸のもとに来るや否や服を思い切り掴む。壁に足を貼り付けて。
「お前は誰だ、お前は何だ」
「…」
「いや知っている、お前を知っているぞ。エデンのなれ果て、奈落の腹底。お前は終焉の鐘そのものだ。喋れるだろう、さっさと口を開け」
がさがさと口に当たる蝗が蠢く。側から見れば彼女は服を着た蝗の群れに文句をつけるヤクザだ。
ちらりと背後を見れば渦巻くように蝗たちが飛んでいる。
「…治ると」
ぞわり、と鳥肌が沸き立った。鐘の音を合成音声にしたような、機械的でいて意味をなす音の羅列。
「治るなど、嘘をついた。お前はもう、エデンの、知恵の実、ならざる者」
「…」
「嘘をつき、利己に酔った。お前はもう、エデンの民ではない」
「もとよりそのつもりだ。何を今更」
ガラガラガラと、乱雑に鳴らす鐘の音。Aのヒビと灰が深くなる。
「お前の役目はエデンの中核。お前の知恵はエデンの未来。お前は捨てた、お前の場所を、だから我々も死んだ、父親も」
「そんなものもとから無い」
カラリと涙の役を演じる蝗が死んだ。
「私は、蛇のためにエデンを出て、旅をして、その旅に後悔はない。どれだけお前が私を責め立てようと、私は己が間違ったとは微塵も思わない。この地球が、…」
亡き父の服を握りしめ、バチバチバチと激しく稲妻を踊らせる。
「終わりの時が来た、お前にも、私にも」
カッと光って、大きな雷が直撃する。クラクラするほど激しい光に、建物の中にいた奴らも目を閉じた。
ぺたと裸足で地面に降り立った彼女の右腕は消えており、首から胸にまで灰が及んでいる。服が焼けこげ、布として機能していない。
消し炭になった蝗は壁のシミになった。
エデンの泣き声を振り切ったからには地獄行きだろう。
「さて」
彼女は首を失った蝗たちが、ぐちゃぐちゃに飛び回っているのを見上げた。
「行こうか、地獄道中」

『“この地球が…”』
テレビを見ていたブルマが口元を押さえている。信じられないものを見るときの彼女の癖だった。
真っ白になったテレビの画面からは耳鳴りのようなキンとする音が流れたきりだ。
「…ベジータ…」
神殿で見るテレビは何とも俗物的だった。縋る妻の手を彼は払い除けもせず、また重ねることもしなかった。
「あの子にとって、私たち、正しい場所になれたのかしら…」
「知らん」
冷たく答えてテレビから目を逸らさない。
「が、あいつが守るに値するんだ、命を賭けるほどに」

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ニック(プロフ) - とても良い作品でした。最終回なのが悲しいです。 (2023年4月25日 17時) (レス) id: 929d0bcae2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:メルト | 作成日時:2022年8月3日 17時

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