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ブルマの研究室の端に、棺桶のような箱がある。
大量の管に繋がれて水の音が響く。サイヤ人の治療ポッドにある溶液を再現して、その中で泳ぐのは人工皮膚。
骨格すらまだない赤子のような一枚の皮は、そのうち泡のように崩れて溶けていった。ブルマは大きくため息を吐いてぎしりと背もたれに思い切り体を預けた。
同じく部屋のど真ん中にあるのは、160センチと230センチの鋼鉄の骨格。ベジータが殴っただけじゃ変形しないほどの強度を誇る混合鉄は、たったの3日で作れたのだが、どうも生命科学は苦手だった。
ブルマの専門は宇宙工学をはじめとする物理の、完全に数字が定まった世界だ。生命などという不確定でまだ解明しきっていないものを試行錯誤するのは好きじゃない。効率が悪い。
机の上にある脈打つ無花果の指先で撫でる。
あんたは今どんな夢を見ているの?
あんたは今何をしているの?
無花果の皮が剥けそうだ。食べてしまえば、あんたのこと、もっとわかるのかしら。

なんてね。

「食べちゃだめ!」
Aが幼い言葉遣いで怒っている気がした。後ろの正面には誰もいないが、そばにいると良いな。
「お前のしていることは、神への冒涜に等しいかもな」
トレーニングを終えたベジータがドリンク片手にブルマの書いた計算式や実験内容に目を通した。
「タイムマシン以外は怒られてないもーん」
「それはそうだが」
「人間が人間を作るのはいけないことかもしれないって、それは昔から言われてるわ。だからこそ、私は人間は作らないの」
失敗した培養液の入った筒を書類で叩く。
「Aは子供を作らない。私が死んだら、誰にも治せない。アンドロイドなのよ。でも、出来れば元の状態に近いほうがいい。皮膚や臓器は人間のものがいい。それから…」
「…」
「…それから、死ぬときは痛みも何も感じない方が…」
ベジータの脳裏に蘇ったのは、頭も腹も破裂する瞬間だった。絶叫が耳をつんざいて、冷血なサイヤ人の頃でも聞かなかったほど痛みを訴える高く空に響いたあの瞬間。
可哀想だとも思わなかったが、黒い粘液を無様に撒き散らしながら、それでも生きている彼女を残酷すぎる地獄に送ってしまったような気がしている。デンデにはまた申し訳ないことをした。しばらくの間彼は悪夢にうなされてピッコロから離れようとしなかった。
「人間にしてやれ」
すぐに死ねるように。
痛みで悶絶して戦えなくなるように。
「見た目に相応した、か弱い奴に」
強さなんていらないと思えるように。
もう、地球を背負って戦わないように

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ニック(プロフ) - とても良い作品でした。最終回なのが悲しいです。 (2023年4月25日 17時) (レス) id: 929d0bcae2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:メルト | 作成日時:2022年8月3日 17時

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