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「あんた、強いんだな」
「ゅ…えッ…あ″…」
男が一人Aを抱きかかえ、引きずるように、家の中に入れようとする。蝗たちが群がっているため時々彼女を離して服をバタバタさせて蝗を散らす。
彼に触発されたように男が2人出てきた。
「足の方持ってくれ」
「俺の服貸してやる」
「ありがとうな姉ちゃん。生きてくれよ」
静電気が時々はじける音がする。蝗たちが食い散らした街の壁や、彼女の着地の衝撃で崩れたアスファルトが町の濃い傷になる。
「げぇッ…」
黒い液体がごぽっと溢れた。男たちの服を汚す。
バタンと音を立てて箒や麵棒を握りしめた女が5人出てきた。トイレブラシという凶器を握っている女は一番若かった。
うおおおおおと雄叫びと共に女どもは男どもの周りにいる蝗を追い払うように振り回した。
「はやく入りな!」「一匹だって入れやしないよ!」「うやあああ!」「その子それ以上噛んだら許さないから!」「死ねぇ!」
だが所詮、人間だ。
エデンという無限の時間を持つかの国の成れ果て、無限の腹底の集合体。人間なんてダニにも及ばない小さな生き物だ。踏みつぶされるように有象無象に食い千切られる。
やめろ
しかし彼らは声を押さえ、より苦しんだはずの彼女を思って耐えた。
やめてよ
Aの穴という穴から止めどなく黒いタール状の液体が零れてくる。虚ろになった目にはもう何も映っていない。左手に力が入らない。
体が掴まれている。あったかくて、力強くて。
でも放して
放して。私はあなたたちを…。
痛くて怖いから、甘えてしまう。
私が守るべきものに。
「ああああ!もう!しつこい!」「さっさとしろ!」「掃除機持ってきな!」「持ちにくいんだってバランス悪ぃから!」「もう俺の背中に乗せろ!おぶる!」「ババアの底力をなめるんじゃないよこの虫けら!」「殺す!」
「俺達も行くか?」
「いやでもよぉ」
「…行くわよアンタ!」
「えっ!?」
「お姉ちゃん僕たちも行こう」
「お姉ちゃんじゃないアネゴとお呼び。ね、お母さん」
「お母さんじゃない母上とお呼び」
「わしらも行くぞ」
「お前の骨はわしが拾うぞい」
「まあ、死を思うことはとっても大事ですわ。わたくしだって誇り高く死ぬことを忘れたことは700年の一度もありませんでしたわ」
「お前700年しか生きてないのか」
「そうじゃなくて!…その時、その日を生き抜いて、明日も生きようと思うのは良い事だと思いませんこと?」
「…」
「同じく、生きてほしいと望まれるのはとても幸福なことですわ」
「…それは分かる気がする」
「あら、愛ですわ」
「適当ぶっこくな」
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ニック(プロフ) - とても良い作品でした。最終回なのが悲しいです。 (2023年4月25日 17時) (レス) id: 929d0bcae2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:メルト | 作成日時:2022年8月3日 17時