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「死ぬってどんな感じなの」
自分と同じ姿で、自分と違う傷だらけな体。傷をなぞって目を伏せる様はさすが自分、とても美しい。
「あなたは、一度死んだんでしょ。どんな感じ?」
「どんなって…特筆すべきことは何もありませんわ。あっという間に真っ暗で、温かくて…」
「なんで誤魔化すの」
服を着ていない自分の裸を見せつけられているようだった。かつて自分より光り輝く髪を持っていた彼女は自身のことにさらさら興味はない様子だった。
「私は知ってる。死ぬ時は、みんな怖がってた。怖くないの?そんなことある?」
「…望まれた死をどうして恐れるのでしょう。わたくし、とても誇らしい気持ちでしたのよ」
帽子をとるように首を外すと目の前の少女は眉ひとつ動かさなかった。
「私は怖いよ。真っ暗に一人なんて嫌だ」
「一人じゃありませんわ」
「一人だよ何言ってんの」
「死ねば皆天国!本当の平等と愛の国に行くんですわ!」
「そうやってまた誤魔化すのか」
「誤魔化すだなんて」
「…」
「…」
二人して押し黙る。
それぞれ目の前にある女が奇妙に見えて仕方ない。死の花の花弁が顔を隠すように舞い上がった。
「蛇は一人で死んだ」
溢れるようにぽそっと呟かれた声は物静かで、諦念を帯びていた。
「蛇も怖がってた、んじゃないかな」
掌を眺める。助けたくて手を伸ばしたはずだったが、それも自分のためだった。
一人になるのは恐ろしかった。例え生きていても、孤独になることは恐れること。落ちた先が地球だったからまだよかったものの、もし何もない星だったら。一人でずっと彷徨って、エデンから逃げ続けていたかもしれない。
「私たちは、エデンの住民はみんな、死なないはずだった。でも与えられて初めて死ぬ。もともとが違うから、死ぬ感じも違うのかな」
「んー…」
Aがしゃがみ込んだ隣に座る。花を弄って摘んで、髪に挿してみる。
「…体はぴくりとも動かない。感覚だけが研ぎ澄まされていく」
同じようにAの髪に花を挿す。彼女は悟りを開く寂しい顔をしていた。
「意識の層がどんどん剥がれていって、完全に無の世界になる。わたくしたちが見ている世界はあくまで表面だけだと思い知る。平和も理想も、表面の世界では成り立たないと理解する。暗闇の中、自分の小ささを、宇宙の広さを、理の偉大さを完全に我が物にする。四次元、っていうんですか」
「…そんなのはじめから分かってるもんじゃないの?」
「あらっ…ぷ、あはははは!」
首を傾げ眉をしかめる美少女の肩をぶっ叩く。
「それでこそ知恵の実!我らが罪の象徴ですわ!」

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ニック(プロフ) - とても良い作品でした。最終回なのが悲しいです。 (2023年4月25日 17時) (レス) id: 929d0bcae2 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:メルト | 作成日時:2022年8月3日 17時

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