検索窓
今日:51 hit、昨日:25 hit、合計:15,350 hit

8 ページ8

善悪とは何か。
知恵とは何か。
父が与えたくなかった穢れとは何か。
彼は1人、食べてはいけないと言われた実がなる木の上で寝そべっていた。
彼はその星でただ1人目覚めていた。生まれ持って善悪も知恵も知っていた。それでいてその使い道を知らずにいた。
退屈だった。
完成された平和の中で生き続けることの虚しさを、誰にも理解されずに彼は父の眼前で欠伸をした。当然のことである。
春風を誰が愛そうか、暖かな日差しを誰が感謝しようか。それらは猛烈な雨と寒さ、それから飢えを耐えねばならないような苦があってこそなのだ。
つまらぬ。退屈だ。彼は寝返りを打って、禁忌の果実を認めた。
そのうちの一つが驚くほどに黒く、脈を打っている。気を取られ、観察する。漆黒の果実は冷たい。
ほかの果実を確認しても、そのような現象は見られない。蛇はその実をそっともぎ取った。
それから父が作った末の子にそれを差し出した。
「よう、エバ」
「あら、蛇兄さん。おはよう」
「アダムとはよろしくやってるか?」
「ええ、とても仲良しよ」
笑う妹は無垢だった。エバはその果実を見ても不思議そうに首を傾げているだけだ。
「なあ、エバ。これ食べてみたくないか?」
「ええ?ダメよ。お父様がお怒りになるわ!」
エバは首を横に振る。
しかし蛇は舌を出して「馬鹿、違うよ」と言った。
「なぜ親父が食べてはいけないものを作ったと思う?なぜ親父が食べてはいけないと言ったんだ?ここにあるものは何だって食べて良い。それは親父が作ったからだ。じゃあこいつは?」
「…知恵をつけてしまうのはいけないことよ」
「なぜ?俺にはわかる。親父はな、恐れているんだ。お前ら2人には親父に近づけるほどの力があるから…だって俺たちにはそんなこと言わなかったぜ?」
鱗の肌を舌で舐めて、蛇はエバに囁く。
「食っちまえよ。大丈夫、バレやしない。それに俺のせいにすれば良い」

「…?」
「よう、お嬢さん。名前は?」
「…??、??」
「なんだ、名前もないのか。そりゃアレだ。A、お前は今日からそう名乗れ」
「A」
「そうそう。親父のやつ、アダムもエバも追い出しちまった。俺のこともな。でもお前を連れ出せたのはラッキーだった。口の中に隠してさ、一緒に出てきたんだ」
「…」
「A、お前何者だ?俺はお前のこと何か知らねぇぞ」
「…ちえ、…ぜんあく?」
「そんなの見りゃわかる」
「?」
「…ふん、まあいい、せっかく追い出されたんだ。俺は親父とは違うから、お前に世界ってもんを見せてやる。2000年くらいな」

9→←7



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (15 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
29人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

メルト(プロフ) - どでぃさん» ありがとうございます!本当はスパヒ始まる頃に終わらせておくつもりでした!無理でした! (2022年7月28日 22時) (レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
どでぃ - 面白いです!すっごい続き気になってます、更新頑張ってください。 (2022年7月28日 11時) (レス) @page49 id: 8e1c6e0d2a (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:メルト | 作成日時:2022年5月3日 0時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。