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善悪とは何か。
知恵とは何か。
父が与えたくなかった穢れとは何か。
彼は1人、食べてはいけないと言われた実がなる木の上で寝そべっていた。
彼はその星でただ1人目覚めていた。生まれ持って善悪も知恵も知っていた。それでいてその使い道を知らずにいた。
退屈だった。
完成された平和の中で生き続けることの虚しさを、誰にも理解されずに彼は父の眼前で欠伸をした。当然のことである。
春風を誰が愛そうか、暖かな日差しを誰が感謝しようか。それらは猛烈な雨と寒さ、それから飢えを耐えねばならないような苦があってこそなのだ。
つまらぬ。退屈だ。彼は寝返りを打って、禁忌の果実を認めた。
そのうちの一つが驚くほどに黒く、脈を打っている。気を取られ、観察する。漆黒の果実は冷たい。
ほかの果実を確認しても、そのような現象は見られない。蛇はその実をそっともぎ取った。
それから父が作った末の子にそれを差し出した。
「よう、エバ」
「あら、蛇兄さん。おはよう」
「アダムとはよろしくやってるか?」
「ええ、とても仲良しよ」
笑う妹は無垢だった。エバはその果実を見ても不思議そうに首を傾げているだけだ。
「なあ、エバ。これ食べてみたくないか?」
「ええ?ダメよ。お父様がお怒りになるわ!」
エバは首を横に振る。
しかし蛇は舌を出して「馬鹿、違うよ」と言った。
「なぜ親父が食べてはいけないものを作ったと思う?なぜ親父が食べてはいけないと言ったんだ?ここにあるものは何だって食べて良い。それは親父が作ったからだ。じゃあこいつは?」
「…知恵をつけてしまうのはいけないことよ」
「なぜ?俺にはわかる。親父はな、恐れているんだ。お前ら2人には親父に近づけるほどの力があるから…だって俺たちにはそんなこと言わなかったぜ?」
鱗の肌を舌で舐めて、蛇はエバに囁く。
「食っちまえよ。大丈夫、バレやしない。それに俺のせいにすれば良い」
「…?」
「よう、お嬢さん。名前は?」
「…??、??」
「なんだ、名前もないのか。そりゃアレだ。A、お前は今日からそう名乗れ」
「A」
「そうそう。親父のやつ、アダムもエバも追い出しちまった。俺のこともな。でもお前を連れ出せたのはラッキーだった。口の中に隠してさ、一緒に出てきたんだ」
「…」
「A、お前何者だ?俺はお前のこと何か知らねぇぞ」
「…ちえ、…ぜんあく?」
「そんなの見りゃわかる」
「?」
「…ふん、まあいい、せっかく追い出されたんだ。俺は親父とは違うから、お前に世界ってもんを見せてやる。2000年くらいな」
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メルト(プロフ) - どでぃさん» ありがとうございます!本当はスパヒ始まる頃に終わらせておくつもりでした!無理でした! (2022年7月28日 22時) (レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
どでぃ - 面白いです!すっごい続き気になってます、更新頑張ってください。 (2022年7月28日 11時) (レス) @page49 id: 8e1c6e0d2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:メルト | 作成日時:2022年5月3日 0時