37 ページ38
ベジータの言葉を最後に、ドミヌスは静まり、「仰る通り」と言った。
「完璧で、無欠で、これ以上ない清い惑星。それは生きるべき場所ではなく生きた後に向かう場所。ここではあらゆる生命体が穏やかに暮らしている。彼らはみな私たちが作り上げたデータに過ぎないが、それが何だというのか」
「貴様らの、そこの壁に埋まってる気色悪い七人とお前のための楽園を、よくもまあそこまで大袈裟に言えたものだ。ここには生きているものは何一つない。生命体だと？ふざけるな。お前の言うことが正しいならあそこにいる蠅一匹も偽物だ」
「偽物か本物かはそちらの尺度で計ったもの。我々にとっては一切の人間を有さないこの星こそ本物の世界だ。アダムとエバも、結局は我々のための子…同胞たちの器の役割だった。空だったものを蛇に満たされただけだ」
ドミヌスはそう語り終えると一息ついて煙草を口に咥えた。ビッ、と鋭い光が照射され煙草に火が着く。
「今思えば蛇を作ったのは失敗だった。知をもっと分けて他の生き物に与えればこんなことにはならなかったでしょう」
こいつは本気で楽園こそ正義だと思っている。
その激情は誰のためのものかベジータには分からなかった。悟空は難しい顔で話しを聞いていたが半分も理解していないだろう。
この場でこいつを改心させるのは難しそうだ。
「…オラ、おめぇたちのことちっともわかんねぇけどよ」
悟空は言い方に悩んだ顔でドミヌスを見上げた。
「なんで自分の娘を、わざわざ作ったのに、泣かせるような真似をするんだ」
悟空にとって一番気になったことがそれなのだろう。子供を持ち、すでに孫もいる彼にとっては何が一番大事で、そのほかはどうでもいいのか気にもしないのか、エデンの仕組みや成り立ちは二の次らしい。
ドミヌスは彼に見上げられながらも射抜かれるような、腹の底を狙う殺気を感じ取った。
「あれは、私のエゴでできたものだ。唯一私の私情を挟んだ、この世界にたった一つの宝物だ。泣いても悲しんでも、私のところにいるならもうそれで良い」
ドミヌスは立ち上がって壁のパネルに触れた。近未来的な青い光が壁を縦横に走り、ばらりとブロックが外れるように壁が浮いた。
「この世界は美しい。私が作ったものだから」
偽物とは思えないほど美しい青空は、美しすぎるがゆえに偽物だ。
「初めは新たな人間を作ろうとしていたが、完成する前に全員死んでしまった」
白く巨大な十字架が天をつくばかりに聳え立っている。
６度目の鐘が鳴り響いた。
「墓場でも、なんでもいい。私のための楽園だ」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 29人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
メルト(プロフ) - どでぃさん» ありがとうございます！本当はスパヒ始まる頃に終わらせておくつもりでした！無理でした！ (2022年7月28日 22時) (
レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
どでぃ - 面白いです！すっごい続き気になってます、更新頑張ってください。 (2022年7月28日 11時) (レス) @page49 id: 8e1c6e0d2a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：メルト | 作成日時：2022年5月3日 0時
