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神父の装いをした初老の男は語り出す。
このエデンの始まりと、彼女のことを。
「もう滅びてしまった故郷には、私の家族が居ました」
第18宇宙の惑星マナは、人類の危機に瀕していた。硬質な肌を持ち、光り輝く頭髪を得た彼らの星は蛮族に狩られ、砕かれ、売りさばかれた。
老人は薬に、赤子は首飾りに、少年少女は芸術作品に、男は壁に散らされ女は砕けるまで腹を暴かれる。生死を超越した彼らにとって死とは何よりも恐ろしく不可解なものだった。
そんな阿鼻叫喚の中、旗を振って彼らを歓迎し、笑いかけ、共に歌って寝ようと言ったのは彼の娘だ。彼女の名前はインマヌエルと言った。
インマヌエルは良く笑う一際美しい少女だった。もともとマナの一族はそれなりに皆容姿は美しいものだったが、インマヌエルは特にその輝きを瞬かせ、月よりも太陽、太陽よりも満天の星空のような少女だった。
「インマヌエル、何をしている、隠れていなさい」
「お父様いけませんわ。お客様には葡萄酒とパンを用意して、油で髪を洗わねば。お客様、こちらへどうぞ。おつかれでしょう、足を洗って差し上げますわ」
インマヌエルに戸惑いつつ、家を強襲した下っ端の三人は彼女に言われるがまま椅子に座り、足を洗い、食事を共にした。
そしてたった一晩でその三人を蛮族から解放してしまったのだ。
語り明かした後で三人は泣きながらインマヌエルに感謝を伝え、その場を去っていった。ドミヌスは呆気にとられ、また彼女は次の蛮族を招き入れた。
「宝石が欲しいなら差し上げます。私の髪はこの星で一番美しいのだそうですよ」
「お父様、こちらの方のご令嬢が病を患っているそうですわ。ご診察なさってくださいまし」
「まだ足りなくって?お口に合ったようで嬉しいですわ」
彼女を襲おうとした輩はみんなその直前で手を止めた。それに気づいていながら彼女は何も言わず、寝たふりをしていた。
食料が尽き、美しい朝焼けだけが拝めるようになった時、漸く蛮族のそれなりに役職のある者たちが出てきた。インマヌエルは絶えず笑顔で応対した。
しかし彼らは扉を開けられるや否や彼女を特性の剣で貫いた。
一瞬きょとんとしてから、インマヌエルは腹に空いた穴を撫でた。痺れる激痛を知覚するころには膝は地面についており、彼女は息を荒くして、それでも微笑んだ。
「…何が、お望みですの」
「お前の顔だ」
「…いいでしょう、差し上げますわ」
振り下ろされた剣を止めることはできなかった、父も、娘も。
ただ暗に託された希望の箱舟で、娘ごとこの星を焼き潰す。
彼女の時間稼ぎは完璧だった。
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メルト(プロフ) - どでぃさん» ありがとうございます!本当はスパヒ始まる頃に終わらせておくつもりでした!無理でした! (2022年7月28日 22時) (レス) id: 465e22fbd6 (このIDを非表示/違反報告)
どでぃ - 面白いです!すっごい続き気になってます、更新頑張ってください。 (2022年7月28日 11時) (レス) @page49 id: 8e1c6e0d2a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:メルト | 作成日時:2022年5月3日 0時