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それから彼は内定先のGSの早期研修で、
私はゼミと就活で忙しくなって、
なかなか顔を合わせる機会がなかった。
そのまま春が来た。彼と出会って3年目の春である。
私の心の病気は気付けばなくなっていた。
逃げたい、消えたい、と常習的に思わなくなっていたことに、
日本に帰って半年以上が経って、ふと気付いた。
ルーカスが父に何かを言われたのかは結局分からない。
でも、彼が内定先のGSに無事入社できたことを知った。
そして私は今、大っ嫌いな父と向き合っている。
いや、向き合わざるを得なかった。呼ばれたのだから。
「ルーカスが、GSに入社したか……」
「……」
「いつ辞めさせる？」
「……」
父親には呆れ返っていたから、
その発言も割と想定内ではあった。
あの男は神の皮を被ったクズだと心の底から思う。
なんの反応も示さない私に、父親が話題を変えた。
「お前の就活はどうだ？順調か？」
「明後日、第一志望の最終面接がある」
「なあ、考え直さないか？
お前は本当にこの汚い社会で労働者をしたいのか？」
「何よ、その言い方」
「父さんはお前のためを思って言っているんだ」
「それでもいい。それでも私は社会人になる」
「……勝手にしろ」
あの優しかったお父さんはもういない。
自分の体裁を保つのに必死な、教祖としての父しかいないのだ。
教祖にはなるまい。ずっと一緒に暮らしてきたから分かる。
カルト教団の教祖は、いや、少なくとも私の父親は、最低な人間だ。
ああはなるまいと、私は立派な社会人にならねばと、
最終面接の案内のメールに目を通しても、文章が頭に入ってこない。
……こんなに頑張って就活をしていても、
結局私は父の権威に甘えてしまうのだろうか。
「お母さん」
「うん？」
「就活頑張って、って言って」
「就活頑張ってね。Aなら絶対にできる。
Aの行く場所が、Aにとって最善の場所だから。
あんまり気を張りすぎないでね」
「……ありがとう」
冷蔵庫にストックしていたエナジードリンクを飲んで、
頭を強制的に冴えさせてからまたさっきの文面を見た。
私はできる。絶対にできる。絶対に社会人になるんだ。
他の誰でもない自分のために、
残りの2日間は最終面接のことだけを考えて過ごした。
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作者名：johnana | 作成日時：2022年2月14日 0時
