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会堂の奥に、父だけが使える部屋がある。
蝋燭が灯りを担う薄暗い部屋に、父は座っていた。
「お父さん」
「……来てよかっただろ」
「そう、だね。来てよかったかもしれない」
「さっき、ルーカスくんと話していたよな？」
「うん。別に大した話でもないけど」
「ルーカスに、うちの教会で働いてもらおうと思っている」
「……それは……やめた方がいいんじゃない？」
「どうして？」
「ルーカスくん、内定を取って、私たちのおかげって
言ってくれたの。彼の努力を蔑ろにはしたくない」
「お前はルーカスが努力で内定を取ったと思っているのか？
違うだろ？俺たちが、ルーカスに、内定を取らせたんだ」
「じゃあ私たちが何をしたって言うの？
私はイタリアに行っていて何も知らなかった。
お父さんは何かしたの？」
「お前は俺に向かって偉そうな口をきける立場か？
言葉を慎め。自分の立場を弁えろ」
「……とにかく私は絶対に反対。彼が可哀想だもの。
彼のキャリアを私たちが台無しにしていいと思ってるの？
せめて私が継いでからにして」
「じゃあお前はいつ継ぐんだ」
「社会人を全うしたら」
「A！」
勢いよく扉を閉める。そのままトイレの個室にこもった。
何なの？私は間違ったことを言ってないし、
世間の感覚だってお父さんより私の方が分かってる。
外銀の内定を辞退させて聖職者にさせるのが正しい？
そんなはずない。
……私が怒っても私の意見を父親に伝えても、
もう父は聞く耳を持たないんだろうな。
父は変わってしまった。私が知らない間に。
父は自分が人間であることを忘れてしまった。
自分の父親とはいえ、この人とは関わりたくない。
もう帰ろう、と個室から出た。そのまま家に帰った。
「おかえり」
「お母さん……」
「どうしたの、元気ないね？何かあった？」
「……なんでもないよ」
母まで巻き込むのは違うと思って、
そのまま母に大丈夫だよ、と微笑みかけて部屋に戻った。
疲れたし、大丈夫じゃなかった。
明日から大学があるということがもっと私の首を絞めた。
もう逃げ出したいな。どうしてこんな状況にいるんだろう。
死ぬのは怖いから、ここじゃないどこかへ行きたい。
考えが深まるのを恐れて、
飲み忘れていた昼の分の精神薬を飲んだ。
早くここから消えたかった。
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作者名：johnana | 作成日時：2022年2月14日 0時
