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それから私はすぐ、ローマの聖書学校に留学した。
2年間大学を休学して、異国の地で毎日ラテン語と聖書と向き合い、帰ってきた頃には友達は卒業間近だった。
私はこれから3年生が始まる。
友達はいないし、周りも知らない顔ぶればかり。
2年間で、父の宗教はある程度有名になっていた。
日本のスピリチュアルブームに便乗した父は、
2年前よりももっとたくさんの信者を抱えていた。
そして、私がインマヌエルの一人娘であることを、
みんなが知っていた。教員もクラスメイトも、ほぼ全員。
露骨にお前の父親って神様なの？と聞いてくる人はいなかったけれど、肌感覚で、私が他の人に一目を置かれ、そして一線を引かれているのには気付いていた。
周りが無理に沢山の人と関わろうとしない点では、
私が大学生でよかったと思う。
好奇の目で見られても、それ以上は何もなかった。
それだけが救いだった。
「お母さん」
「うん？」
「誰が言ったの？私のこと」
「父さんが、私の娘は私よりも強い力を持っているから、
教祖が変わっても安心してほしいって言ってね……
普通なら考えられないくらい、取り上げられちゃって」
「……そう」
……どうして勝手にそんなこと言うの。
私は別に、神になんかなりたくない。
他の人と変わらない、普通の人生ならそれでよかった。
目立ちたくもないし、一部の人には知られながらも
ひっそり社会人をできたら、もうそれでよかったのに。
「ごめんね」
「……お母さんは悪くないよ」
父の代わりに、何も悪くない母に謝られて、悲しくなった。
一人娘が後継者になることは、何となくは分かっていた。
分かっていたけれど、それでも。
こんなに急に現実に直面すると、心の整理ができない。
母の書斎の扉を閉めた瞬間、一気に涙が出た。
気分がぐちゃぐちゃになって、
泣くことでしか自分と向き合えなくて、
その夜は一晩中泣いた。
そのまま私はどんどん心が荒んで、抑鬱状態になって、
薬でしか精神をコントロールできない自分に嫌気がさして、
死のうとして、何度も死のうとして、死ねなかった。
大学3回生の、春のことである。
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作者名：johnana | 作成日時：2022年2月14日 0時
