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「ええ、そうですね」
「もう行かれないんですか？そんなことないです、よね」
もう行くつもりはなかったし、
あの団体とも関わらないようにしようと思っていた。
私がルーカスの誘いに乗ったのは、
個人的に人としてルーカスのことが好きだったから。
悪い人ではないし、
教会の外でもこの人と付き合えたらいいな、と思っていた。
彼は、私が父を信仰していないことをきっと知らない。
「……戻ってきてほしいです」
「そう、ですか」
「また来ますよね？
リアーナ様の再臨を僕たちは待ち望んでいます。
……また、来ますよね？」
行けたら行きますハハ、とは言えなかった。
彼の目は本気だった。
商社で落ちぶれた私を見ても、
まだ彼は私を神だと思っているのだろうか。
私は全知全能とは程遠い、ただの人間なのに。
「A様。路頭に迷った僕たちを、お助けください」
「……もうこの話はやめましょう」
逃げた。
ルーカスは賢い。
視野が広く、受容力があって、聡明な人だと思う。
なのに、私が神でも救世主でもないただの人間であることに
なぜか彼は気付かない。
それは私が言っていないから？それだけ？
「……美味しいパンですね」
「そうですね」
その会話を最後に、
私たちがこのレストランで何かを喋ることはなくなった。
値段と味が合っているのかどうか分からない料理は、
結局ルーカスが2人分を支払ってくれた。
それだけはよかった。
「じゃあ、これで。今日はありがとうございました」
「ありがとうございました。じゃあ、また」
ごめんね、もう次はないよ。
この人が信仰心をなくすまで、
私はきっとこの人とは会わないと思う。
たった数時間で宗教の怖さを再認識させられた。
私は無宗教が多数派を占めるこの国で、
普通の、マジョリティ側の人間になりたかった。
今日まで、心のどこかでルーカスのことが好きだった。
きっときっぱりとは諦められない。
でも、いくら私がルーカスに未練があっても、
ルーカスが父の信者である以上は、
私はもうルーカスを好きになることはないと思う。
私はこれから、マジョリティ側の人間に染まれるだろうか。
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作者名：johnana | 作成日時：2022年2月14日 0時
