ご飯を食べよう ページ9
side.JH
「Aヤ、ご飯食べよう」
スンチョルとペンギンが出てくる子ども向けのアニメを観ているAの背中に呼びかける。まだ口話がほとんど成り立たないAにはいい教材で、一生懸命韓国語を理解しようとするその健気な姿に皆目尻を垂れ下げている。
SC「Aヤ、お箸上手に持てるかな？」
『む…』
SC「おっ…おお〜！凄いじゃん！」
「いっぱい練習したもんね」
『(こくん！)』
SC「ｷﾖｳｫｫﾝ…」
誇らしげに箸を持つAの姿に思わず笑みが溢れる。
ここにきたばかりの頃、食事をしようと言うと不思議そうに俺を見つめるだけで動こうとしなかったね。
痺れを切らした俺に手を引かれてテーブルに座らされ、皆が見守る中「食べて、」と言われると、君は弟達の前に器を差し出した。
「…A？」
【食べて】
MH「ヌナ？」
【沢山食べて大きくなって】
「…っ」
【私は、お腹いっぱいだから】
「…A、…A…っ」
MG「ヒョン、手話わかるの…？A、なんて言ってるの…？」
「…っ沢山食べて大きくなってって…私はお腹がいっぱいだから…って…」
MH「え…？」
「…Aヤ、」
『？』
「…あの場所で、自分の食事を全て子どもたちに分け与えていた事、聞いているよ」
DK「そんな…」
「でもね、ここでは…俺たちのこの家では、ちゃんと1人1人に食事が行き渡るようになってる。もちろん、Aもその1人だよ、」
『……？』
「今は、よく分からないよね…？でもね、これからはこれが当たり前だと、思って欲しい。この食事は、Aの分」
『……』
「A、お腹いっぱい、食べてもいいんだよ」
『…っ』
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まだもたもたとしながらもなんとか箸を使ってご飯を頬張るAはまだ痩せ細ってはいるものの、確実に健康体に近づいている。
あの時、箸はおろかスプーンの正しい持ち方も分からなかったAに、俺たちは自分たちが想像していた深刻さを優に超えた現実に心を痛めた。
口の周りを汚し、前掛けに汁をこぼしながら食事をするAに、ここにいる誰1人「綺麗に食べなさい」とは言わない。
だってこんなにも一生懸命に生きている君の一瞬一瞬の全てが、どんな時だって、どうしようもなく、愛おしいから。
口元を優しく拭ってやると、ふにゃりと笑ったAに胸が高鳴る。
可愛いA。いつか君に、気持ちを伝える事ができるかな。
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作者名：さくらんぼ | 作成日時：2023年10月29日 19時
