・ ページ8
.
くしゅ、と腕の中で小さく聞こえた音に慌てて身体を離す。
風邪をひいてはいけないと急いで一緒に中まで入り体に温かいお湯をかけてやる。
「何が分からなかった？」と聞くと、シャンプーを指さして困った顔で『シャ…？』と言った。
「(かわいい…)シャンプーだよ」
『む…』
「…もしかして、使ったことない？」
『(こくり)』
「…っ…そっ、か」
シャンプーの裏側に書いてある文字を一文字ずつゆっくりと読みながら頭にはてなマークを沢山浮かべるAの姿にぎゅっと胸が締め付けられる。
分からない…というような顔で俺の顔を見上げるので、安心させるように頭を撫でた。
「ごめんね、分からなかったね。俺が洗ってあげる。大丈夫だよ」
お湯をかけている間にびしょびしょになってしまった服が煩わしかったので、もう一緒に入ってしまえと全て脱ぎ捨てた。
わしゃわしゃと優しく頭を洗って、丁寧にリンスもつけてやる。
俺も髪の毛を洗うからその間に身体を洗っていて、とボディーソープを渡すと、力強くごしごしと擦りだしたので慌てて手を掴んでやめさせる。
「…っ、かさぶたが剥がれて、跡になっちゃうよ」
『？』
「痛くない…？」
『(こくん)』
「そっか……でも、このかさぶたが剥がれちゃうと、傷跡になって、なかなか治らなくなっちゃうから。優しく洗ってあげて？」
『…？(こくん)』
また分かっていないような顔で頷いたAの手からタオルを取り、こうやって、と優しく身体を洗ってやる。
擽ったそうに笑うAに思わず俺も笑顔になる。
この子が笑うと、どうしてかな。俺も嬉しい。
「指の間もこうやって洗って…」
『ふふ、』
「ふふ、擽ったいね、もうちょっと我慢してね、」
『(こくん)』
「はい、あと大切なところは自分で洗うんだよ」
そこはちゃんと理解していたAに少し安心して、自分の頭を適当に洗う。
同じように体もさっさと洗ってしまおうとタオルを当てていると、じっ…と横からAの視線を感じて目を合わせる。
「ん？どうした？」
『…や、』
「や？」
『…やさ、しく、』
「…！」
さっきは分かってないって顔してたのに…俺の手からタオルを取って優しく背中を擦ってくれるAの行動に目頭が熱くなる。
ごめんね、次からはもう目を離さないから。
ちゃんと俺たち、一緒に大人になっていこうね。
✴︎
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 715人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：さくらんぼ | 作成日時：2023年10月29日 19時
