お風呂に入ろう ページ7
side.WN
「Aヤ、お風呂に案内してあげるから、おいで」
『(こくん)』
男所帯に女の子が1人なんて大丈夫なのかと思っていたが杞憂に終わった。あの劣悪な環境に閉じ込められていたこの小さな女の子と暮らす事実をメンバー全員が不思議とすんなりと受け入れたのだ。
唯一心配だったジフニでさえ「静かで良い」と言う始末だ。
俺たちって、急な変化にこんなにも寛容だったっけ。
ぽてぽてと自分の後ろをついてくるAにそっと目をやる。
…俺たちが寛容なんじゃない。この子の雰囲気が俺達をそうさせる。そんな気がした。
「これがシャンプー、リンス、ボディソープだよ。ここで温度を調節。何か困ったことがあったら外にいるから呼んでね」
『……(こくり)』
あの子…頷きながらも固まっていたけど大丈夫かな…
まぁ、何かあったら呼ばれるだろう。とドアに背を預けて持ってきた本に目を通していると、不意に体が後ろに傾く。
「うお、」
『………』
咄嗟に手をついて、初めてドアが内側から開いた事に気づく。
やっぱり分からなかったか…と思い立ち上がって振り返ると、そこには一糸も纏わないで立ち尽くすAの姿があった。
「……っ」
陽の光を浴びたことのないような青白い肌、同世代の子どもというにはあまりにも痩せ細った身体。そんな頼りない身体についた、沢山の痣と傷跡から目が離せない。
そして蘇る、地面に叩きつけられるAの姿。
裸を見てしまったとか、申し訳ないとか、そんな感情は一切なかった。
ただただ、胸が痛んだ。
「…っA、」
『……？』
「あぁ…どうしよう…こんなに…傷が……」
痛いかと聞くと、不思議そうな顔で首を横に振った。
そっと近づき震える手で胸元の痣に触れると、こちらの気も知らず擽ったそうに笑いながら身体を捩らせる、あまりにも無知で、純粋で、世間を知らないA。
傷に細心の注意を払いながらそっと腕の中に閉じ込めると、何をされているのかも分からないのだろう。暴れるわけでもなく、抱きしめ返すわけでもなく、Aはただ無邪気に俺のシャツの手触りを確かめていた。
その姿を見て、胸にどろりとした感情が湧き上がる。
なんて可哀想なA、僕が護ってあげなきゃ。
腕の中で俺の顔を見上げたAの仄暗い瞳の奥に映る俺は、どんな顔をしているのかな。
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作者名：さくらんぼ | 作成日時：2023年10月29日 19時
