PUP 10 ページ10
慌てて戻り、「道に迷ってた！」と誤魔化すと、ジョンハンのことだから「校舎で迷うアホがいるんだな」なんて言葉が聞こえてくると思っていた。
想像とは打って変わって、ジョンハンは私の足音を聞くなりグリっと首を回してこちらを認識した瞬間、目を開いたあとズカズカと向かいから歩いてきた。怒られるかな、と思った私は「ごめん…」としおらしいわんこのフリをしていたら、頭に柔らかい衝撃がぽん、え？と見上げると、ジョンハンが溜息をつきながら私の頭に手を乗せていた。
「…心配しただろ。」
「うん、ごめんなさい。えっと、本当にごめんなさい。」
「なんでそんな謝ってんだよ、もういい。おれがリードをちゃんと持ってないとダメなんだな。」
「うーん、それもそうなんだけど…」
謝りたいのはそこじゃない、いや、そこもなんだけど。この紙袋に入ってるものについてだ。
ほっとしたのかいつも以上にゆるゆるの表情筋のジョンハンはいつものジャイアンぶりを発揮して、私が小さな抵抗としてぎゅっと抱きしめていた紙袋をぶんどった。あああ…無力なり。
「ん。じゃあ時間ないし早く食おうぜ〜……っておま、これっ。」
「だからごめんって…」
「焼きそばパンじゃんか！！」
「……お？」
「いっつも残ってないのにすげーな！よくやったぞわんこ！」
グチグチ言われると思っていたが、ジョンハンは嬉しそうな顔で私の頭に乗せていた手をぐりぐりとしてきた。いやーすっかり焼きそばパンの口だ、なんて言いながらモグモグしている。なんだ、焦って損した。
目をぱちぱちさせてジョンハンを呆然と見ていると、
「なんだよその顔、んむ、おまえもほしいのか？」
一口くらいやるよ、と目の前に食べかけの焼きそばパンがずいっと押し付けられる。……、食べかけの焼きそばパン…。かじられた部分を見て少し思案した私を不思議に思ったのか、「さっきから元気ないだろ。別に怒んないよそんなことで。ほら食え。」と無理やり食べさせてきたので、思い切ってぱくっと噛みきった。
「んむんむ、じょんはん、おいしい！んむ、ありがと！」
「………おー。」
今度はジョンハンがさっきの私みたいな顔をして、食べたところを見つめていたが、少し悩んでまた食べ始めた。
後から思い出しギレされたくないので「今度はメロンパン買ってくるね」と念押ししておいた。
*
(忠犬の極意 : 失敗した時は素直に謝ること。ご主人様の気遣いは遠慮せず受け取ると良い。)
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作者名：あった懐炉 | 作成日時：2024年2月10日 21時
