PUP 4 ページ4
思わず涙が出てしまった私を女の子たちが総出で取り囲みジョンハンを非難して、先生は何があったのか話をしにいった。
先生と視聴覚室から帰ってきたジョンハンは相変わらずむくれた顔で
「スカートとかパンツ見えたらどーすんだよ」
と吐き捨てたので、
「見えないもん、そんなこと考えてるジョンハンが悪い！」
と昔は怖いもの知らずだった私がジョンハンに喧嘩を売って掴みかかったが、彼は私に手を上げることはなく、「でも似合わないって言ったのは、ごめん。」としおらしく小さな声で謝ってきた。
それを聞いた私はすっかり怒る気も失せてしまい、ジョンハンの「露出しすぎるな」という命令をすんなりと聞き入れたのであった。
昔からしつけ上手なジョンハンと、立派に成長したわんこ、こと私はこのように上手く口車に乗せられてここまでやってきたのである。
なんて長い回想を数秒間の間に頭を巡らせながら、バスに乗り込むと、席の空きはまちまちであった。
「ジョンハン、座って。」
「ん」
席を譲るのは当たり前、これは長年の付き合いによって生み出された暗黙の了解である。バスの席はふたつ並んでいるけれど、窓際にはジョンハン、通路側にはリュックがお座りになられるので勿論私は立っている。
体幹も強いし特に困ってはいないので、ぼーっと揺られていると、ジョンハンに「ほら、ここ掴めよ」と自分の席の手すりを指でさされる。
断る理由もないので掴もうとしたところ、メガネをかけた猫顔の青年が「ここどうぞ。僕立つので座ってください。」と席を譲ってくれた。
こんな優しい人もいるのか、と感動して
「ありがとうございます、優しいですね。」
と笑顔で話しかけると、当たり前のことですよと微笑み返して車両の前の方へ歩いていった。
なんだか今日はいい日になりそうだ、と椅子に座ると、スマホが小さくバイブ音を出していることに気づいた。
驚いて取り出すと、待ち受けに通知がいくつも溜まっており、どれも【ユン・ジョンハン】からだった。
《やあ、お前》
《ご主人様がいながらいいご身分だな》
《惚れたか？あのメガネに》
《おれのそばを離れたらダメじゃんわんこ》
《ハー、全く呆れるね》
《これでバスジャックされておれが犯人に狙われたらお前のせいだからな、番犬がいないせいだからな》
「…」
すごい言われようだ。
*
(忠犬の極意 : ご主人様のそばで護衛の役割を果たすこと。他の人間の言うことを優先しない、これ絶対。)
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作者名：あった懐炉 | 作成日時：2024年2月10日 21時
