PUP 18 ページ18
*
「なに、してんの。」
「…ごめん」
「……………？」
「えっ、寝ぼけてらっしゃる」
この男、犬だと思っていた幼馴染みが自分の寝込みを襲ってチューしようとした現場を、
まさか、認識していない。
(私が決死の覚悟で発したあの誤魔化しは一体……)
わんわんと鳴けば、犬が飼い主の口舐めるなんて有り得ることだよなハハ、お前も犬らしくなったなハハ、とかって言ってくれるかと思ったのだけど。
顔を近づけた状態のまま悶々としていると、まだ意識がぼんやりしたジョンハンが目をとろんとさせたままこちらを見つめてくる。
天使のようなその顔に、気持ちを確かめたいとかいう曖昧な目的で無断接触しようとした罪悪感が芽生えて体を起こそうとすると、
ガシッと首の後ろを掴まれてキスをされた。
「……っ、はぁ。ちょっと、どうしたの」
「はははっ、ん、……。」
へらっ、と笑って未だに溶けた目をしながら私の首に腕を回すジョンハン。寝惚けて、おかしくなっている。
唇をくっつけるだけのキスは、私がしようとした何倍も長く、想像の何倍も柔らかくて甘かった。
夢を見ているみたいな顔で、その柔い唇をひらき、かすれた声で「行くなよ」と言った。
…熱を出した幼い子供のように甘えているのだろうか。瞳に寂しそうな温度を滲ませたジョンハンが腕に力を入れてうわ言をこぼすから、私じゃなくて優しくしてくれる存在を求めていたんだと、キスをしたのは特別な感情があったからではないんだと、自分に言い聞かせながらジョンハンを慰めた。
「A、いくな。」
「…どこにもいかないよ、だって私はジョンハンのわんこでしょう。」
「A、おれを、一人にするな。」
「私がいるよ。ほら、寝よう。」
「……A、泣くな。」
「…………泣いてないよ。」
目の前がぼやけて、ジョンハンの表情は見れなかった。
その後すぐに、私の名前を何度か反芻して呟きながらまた寝息を立てて眠り始めた。
さっき、頭を撫でようとして抑えた自分の手はジョンハンの頭の横についてプルプルと震えていた。
手を離してジョンハンの腕をゆっくり外し、布団の上に下ろした。
そして、今度は躊躇うことなく、ジョンハンの目の下に親指を這わせ、昔と違って男性らしい輪郭の頬をなぞったあと、頭をゆっくりと撫でた。
*
(忠犬の極意 : ご主人様が弱っている時は心を込めてお世話をしてあげること。)
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作者名：あった懐炉 | 作成日時：2024年2月10日 21時
