PUP 12 ページ12
「じゃあ、おれの傘使って。」
「えっ？でもそれじゃあジョンハンが濡れちゃうでしょう。」
「おれはいーの！ほら、早く行くよ！先に走っていってるからなっ、置いてかれても知らないよ〜。」
「わ、ちょっと！」
私に傘を握らせて、上着を雨避けに使いながらバシャバシャと走っていってしまったジョンハン。
下駄箱から靴を投げて足を突っ込み、黒い傘を開いて、水が跳ねることも気にせず慌てて追いかけると、バス停の屋根の下でジョンハンが髪をかきあげながら立っていた。
「ジョンハナ！」
「遅かったな、わんこ〜。」
「びしょびしょだよ、拭かないと、風邪ひいちゃう。」
「いーっていーって、はぁ、疲れた。」
「ハンカチ、使っていいから。はい、傘貸してくれてほんとにありがとう。」
ハンカチをタオル代わりになればと差し出すものの、あまりにも小さいし、体力のないジョンハンは自分で拭く元気も残ってなさそうだった。……一緒に入って帰るのはダメだったんですかね、相合傘とか。
とりあえず私もできることをしようと、ハンカチをジョンハンのおでこにそっと当てると、びくっと驚いて体を一瞬引いたあと、されるがままになっていた。
「……ありがと。」
「ううん、こっちこそだよ。帰ったらちゃんとお風呂入ってあったまるんだよ。」
「分かってるって。」
雨が地面に叩きつけられる音の中、やけに自分たちの周りだけ静かだった。そわそわして余計に、「ジスくんが今日もからかってきて」「クラスの女の子がジョンハンかっこいいって」「今日は授業でたくさんあてられて、災難で」「ジョンハン、背が大きいんだね」と口数を増やしてみるものの、なんとなくこの暗い空とぬるい空気に呑まれて黙ってしまう。
前髪が顔に張り付いているから指でそっと払おうと手を近づけると、手首をパッと握られてどきっとする。
いつもと違うジョンハンの目は雨の雰囲気にあてられてかじっとりと熱をはらんでいる。
よく見たら濡れて体のラインを露わにするシャツもなんだか見てはいけないような気がして、色っぽかった。
前に抱きしめられたことを思い出して、余計に目を逸らしたかったのに、ジョンハンは許してくれなかった。手首は強く掴まれていないのに振りほどけないしじんじんと熱い。
「A。」
「…ジョンハン？」
「目を逸らさないで、おれを見て。」
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作者名：あった懐炉 | 作成日時：2024年2月10日 21時
