酔っ払いには要注意【kid】

16話 ページ16

突然だが諸君。『繁忙期』という言葉を耳にしたことはあるだろうか。

プール事業は夏付近、チョコレート会社ならバレンタイン。

職種によって異なる、一年の内で忙しい時期のことだ。




桜魔皇国の研究職にもそう、繁忙期というものがある。



………いや、私達の場合は後に(笑)が付くだろうか。




それが始まるのはいつも突然。祓魔師が新種の魔を発見した時であったり、皇都から直々に研究を依頼された時であったり。


開催理由は様々であるが、とにかく不定期。


研究者にとっての繁忙期(笑)は地獄だ。もっとわかりやすく表現すると、人を人で無くしてしまうのだ。





………え？何故今このような話を始めたかって？賢い諸君らなら、もうお分かり頂けるだろう。







「……1時間。1時間だけ仮眠取らせて…………」

「気持ちはすっごく分かるよ甲斐田。でも現実を見よう現実を。この、そびえ立つ、資料の山を…………」




皇都の研究者は万年人手不足だ。一見インドアな職種に見せかけて、実際は積み重なる残業によって削り取られていく体力と精神。
割と、いやかなりブラックだ。早々と辞めていく人も多い中、変人だけが残るなんて言われたりもする。



人手不足。人員が足りない。

それ即ち、一人辺りの仕事量が多くなるということ。

簡単な算数の問題だ。だが現実はそう上手くは行かない。

私達は教科書の中のキャラクターではなく、何もかも有限な只の人間だから。




「私たち、このタワーを明日までに終わらせなきゃいけないんだって」

「正気か？僕ら今日死ぬんじゃない？」

「ウケる」




現在時刻午後7時。タイムリミットは約5時間。




さあ、地獄の幕開けだ。

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