help15 ページ15
ゆっくりでもいいからうらたさんと笑って話せるようになりたいの、なんて言ったのは どこの誰だったか。
いや、紛れもなく私なのだけれど。
｢オールアップです！お疲れ様でしたー！｣
私は一体何を悠々と考えていたのか。気がつけば、最終回分の収録を終えていた。
あの日の時点で既に収録回数は残り3回だったのだ、 ワンクール分の作品に制作時間をそう長く取れるはずもないのに。
｢打ち上げの店、ここ予約してるんで！｣
若手のスタッフさんが教えてくれたお店は、なるほど大人数で集まるにはもってこいの宴会会場にはピッタリのお店だった。
二次会もどうやらあるらしい。
いつもなら酔っぱらいの集合と化す二次会なんて行くことすら考えないところだが、こうしてうらたさんと会えるのも当分ない、ううん、最後かもしれないのだ。
今夜は遅くなりそうです、と母に短くメッセージを送信しておくのが得策だろう。
｢一緒に行くか｣
｢え、あ、はい｣
突然後ろから現れたのは、今の今まで考えていたうらたさん。
やはり咄嗟に笑顔をつくるなんて高度な技が使えるはずも無く、引きつったような、なんとも言えない表情で返答をしてしまう。
何をしているんだ私は。これでは私がうらたさんのことを迷惑だと感じているみたいだ
｢じゃあ行こう｣
しかし、そんな私の内心の葛藤など全く気が付かないままうらたさんは私の手を握り、引いていく。
｢っ...！｣
｢手、嫌？｣
その顔は絶対確信犯だ。
だって口元は笑っているし、私が嫌だと答えることなんてまるで考えてはいないのだろう。
ぶああ、 と顔に熱が集まるのを感じた
なんだか恥ずかしくて居た堪れなくなり、俯いて首を緩く横に振る。
｢うん｣
なんだかうらたさんが酷く機嫌が良さそうに見えたもので、結局店まで手を繋いだまま歩いていった。
なんて、本音を言えば、嬉しくて離せなかっただけ。
そんなことうらたさんには内緒だけれど。
___
｢お疲れ様でしたー！かんぱーい！｣
ガヤガヤと賑わう席、そして隣にはうらたさん。
騒がしいのは得意ではないが、隣に彼がいるだけで周りの音なんて全く聞こえなくなってしまう
｢なんか飲む？｣
｢あ、お茶お願いします｣
｢はい、どうぞ｣
｢ありがとうございます｣
喉に冷えたお茶に口をつければ、自分が喉が渇いていたことに気付かされる。
もう少し飲みたいな、そう思い手を伸ばしてグラスの薄い茶色の液体を流し込んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 587人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「歌い手」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夢 - 初めまして、とても良い作品ですね。更新停止となっていますが、投稿されるまで待ちたいと思います。 (2020年1月16日 18時) (
レス) id: 393bcdab68 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ねむ | 作成日時：2019年4月5日 21時
