あなたは浮気性 【三途春千夜】

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｢A先生｣








さぁ帰ろう。



明日の授業の準備や書類の整理をしていたら少し遅くなってしまった帰り道。






後ろからかけられた声には聞き覚え。









一気に寒気と冷や汗が止まらなくなるのをバレないように、ゆっくり振り返った。



心配そうな顔の谷口先生。


そんな彼に抱く、嫌悪感と恐怖。









｢どうしたんですか？｣








何も気づいてないふり。



何も変わってないふり。









｢いや、その、帰り道、こっちでしたっけ？｣





｢今日は、友人の所に行くんです｣





｢最近、体調悪そうですね｣





｢仕事も大変ですからね｣





｢なんか、痩せました？｣





｢そう見えてるなら良かったです｣









スキを見せてはいけない。





春千夜さんには悪いけれど、まだつきあってることにしておいたほうがよさそう。








自分自身のためにも、この子のためにも。









｢噂を、聞いたんです｣








当たり前のように私の隣を歩き出すその人とできる限りの距離をとって、家に着いてしまわないようにゆっくり歩く。





刺激をしてはいけない。







でも、逃げないといけない。











｢A先生が、妊娠したんじゃないか、って｣









危ない、反応してしまいそうだった。





目が開かないように、肩が動かないように、なんですかその噂って笑う。









この時ばかりは、この子をいない存在に扱ってしまうことを、許して欲しい。








｢はは、そうですよね｣







なんの害もないような、そんな笑顔に、少しホッとする。






このまま、刺激しないように。















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