#Head Coach ページ6
Taich side
「ということで監督、こちらがAAです」
「いやどういうことで！？」
8月1日。
昨日監督に「明日の練習終わりに時間つくってほしいです」とお願いしておいた。
「初めまして、AAです。早速ですがバレー教えてください！」
深くお辞儀をして、Aは簡潔な自己紹介をしたが監督は戸惑っている様子だ。
顔を上げたAの瞳に、監督の表情が変わる。
たぶんAの本気が伝わったのだろう。
「本気なんだな？」
「はい」
はぁ、と監督がため息を吐く。
「わかった、なら教えよう。一応太一を一から育てたからな、自信はあるぞ」
「ありがとうございます！」
俺の小学校の頃からの監督で、監督を追うようにして久方に来たのだ。
俺は帰ってもよかったのだが少し気になるもので、監督に混ざってAにバレーを教えていた。
が、俺が口出すことはもちろん、基礎的なことなので手伝うこともなく、途中から飽きて一人ボールと戯れていた。
監督は、簡単なパスやレシーブを受ける手の位置、オーバーの手の形など基礎を教えていた。
ちらっとAの方を見ると、アンダーレシーブは下手くそだが、オーバーで打つのがとても上手い。
もしかしたら手先が器用なタイプかもしれない。
「次はサーブだな、とりあえずアンダーサーブからやってみろ」
「はい！」
エンドラインに立ちサーブの打ち方を習っているようだ。
暇だし俺も混ざろう、とサービスゾーンに立つ。
本来リベロはサーブを打たないが、一応できはする。
「お太一もサーブ打つか？ならAに見せてやれ」
「はい」
トスを上げサーブを打つ。ボールはある程度の勢いをつけて、バックゾーンの真ん中に落ちた。
「まあこれがフローターサーブだ。サーブは四種類あってだな」
「アンダーハンドサーブ、サイドハンドサーブ、フローターサーブ、ジャンプサーブ、ですよね」
「よく知ってるじゃないか」
「本で読みました！」
「なるほどな。サーブは打てるのか？」
「授業でやったのでアンダーハンドサーブはできます」
「そうか、ならやってみろ」
はい、と言ってカゴからボールを取った。
そんな感じであっという間に時間は過ぎていった。
最後に監督は「チームの指導もあるから週に一回だけならバレーを教える」と言った。
帰り道、Aはバレーできるのが楽しみだと嬉しそうに笑っていた。
――――この時の俺は知らない。数年後にAがバレーで苦しむことを…………。
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作者名：綴 | 作成日時：2023年10月28日 23時
