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練習終わりに監督に少し、と手招きされた。
Aはまだ着替えているのか、ここにはいない。
「なあ太一。Aの進路は決まってるのか？」
「え？さぁどうでしょう、そういう話はあんまりしたことないんで、わからないです」
「そうか、……いや、そのバレーを中心でやりたいなら、岡崎学園とか強豪を勧めたくてだな」
「たしかにそうですね」
「まあ進路は親御さんとも決めることだから無理にとは言わない。既に決まっているならそこにした方がいいだろう」
「本人に言ったらいいんじゃないですか？」
「それを迷っているから太一に言ってるんだ」
「Aは才能がある……それも、セッターとしてのだな」
「セッター？」
「どんなボールも指定した場所にトスを上げれる。これはとんでもない才能だろ？」
「……Aのトスの精度は卓越してます」
「ただAのセッターとしての才能は強豪に行かないと開花しないだろう」
「どうしてですか？」
「強豪以外だと十中八九ミドルブロッカーになるだろう。ミドルブロッカーとしても上手い方だからな」
「身長が高い上にブロックも上手い。たしかに身長が低くてもできるセッターはさせないでしょうね」
「そうなんだよ。でも、監督としては、才能を開花させてほしいと思うものだろう？」
心の中にモヤッとした感情があることに気づいた。
――――嫉妬だ。
俺は、監督にそれほどまで才能があると期待されているAが羨ましいんだ。
Aが来る前に監督は帰った。
Aとは雑談をしながら帰る。
いつもと同じ。
いつもとなにも変わらない会話のようで、バレーの要素が大きく占めるようになったことに気がついた。
Aは何をどう考えているんだろう。
志望校すら知らない俺は、Aの何を知っているのだろう。
辺りは暗くて、秋に入ったように肌寒くなっていた。
Aと家の前で別れて、ふと思う。
――――――監督としては、才能を開花させてほしいと思うものだろう？
(才能、か)
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作者名：綴 | 作成日時：2023年10月28日 23時
