【第五人格】心の拠り所【成り代わり】 (ページ1)

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気が付いたらおかしい場所に居た。
そこは自分の着ている紺色の制服とは不釣り合いな広い和風庭園の様な場所で、定間隔でししおどしが気の抜ける様な音を出している。その水が繋がっている池には鯉が居り、中々風流だ。
これの何処がおかしいのかと言うと、何故か物に触れない事があったり、さっきまで目の前にあった物がなんの前触れもなく消えたりする。説明は難しいが物の実態が曖昧と言えばいいのか、なんというか…
やっぱり一言で言うと｢おかしい｣のだ。

眉間に皺を寄せ考え込んで居ると遠くの方から床が軋む音が聞こえてきた。何か、誰かが来る？恐怖で強ばる体を抑え、じっと突き当たりを見つめる。
｢エマ……？｣
が、来たのは俺がハマっていたゲームの看板娘とも言えるキャラのエマ・ウッズだった。何故か着物を来ているが。
名状しがたき何かでは無くて良かったとは思うが、警戒は緩めない様にしなければ…

その声を聞いたのか、突然エマは顔を歪めて泣き始めた。かと思えば
｢うわぁぁもうやだぁ！
夢の中でもエマ扱いされだした！！｣
と、顔のありとあらゆる穴から水を垂らしながら涙声のまま叫び始めた。せっかくの可愛い顔が台無しだ。
｢お、おう…落ち着け…？｣
｢無理ぃぃぃぃ……｣

グズりながら踞ってしまったエマを見て、これはちょっと面倒臭いな…と思いながら自分も隣にしゃがんで背中を擦る。
さっきの発言から、このエマは成り代わりらしい事が分かる。エマ扱いされるのが嫌っぽいが、名前を知らないので安直に成り代わりとでも読んでおこう。また｢エマ扱いやだああああ｣って泣かれても迷惑だしな。…初対面の人に対して失礼かもしれないが。
そして、ここは成り代わりの夢の中と考えるのが妥当だろう。夢の中でも、という事はここが成り代わりの唯一の拠り所なのかもしれないな。そこを俺が勝手に上がり込んで乱す訳にもいかないよな…しばらくは話を聞こうかと思う。

現実の俺はどうなった？こいつが起きたら俺はどうなる？等、聞きたいことは色々あるが成り代わりに聞いても何かが変わる訳でもない。起きた後の夢の世界なんて知ったこっちゃないだろう。俺も自分の夢の中の事なんて知らん。
ここが自分自身の夢の中なんて考えは切り捨てた。なんせ寝た記憶が無い。さっきまでいつも通りの通学路を歩いていたし、滑らかなコンクリートの感覚がまだ足に残っている。
そんな風に物思いにふけっていると敵意が無いと判断したのか成り代わりが喚き始めた。