270 「私と母と……」 ページ24
「やだ!」
「はーいそうねー、良いからここで待っててねー」
「やーだー!」
「ふにゅ!?」
頰をぷんぷくりんに膨らませるシビュラ。ばたばた腕の中で暴れるこのちびっこに鼻を蹴られて、一瞬鼻の奥が鉄のにおいがした。
「シビュ!」
「やーーーだーーー!!」
「あぁあ、こら!!」
驚くべき身のこなしで私の腕からするりと抜け出し、シビュラは家の扉を開けて走り出ていく。
「シビュラ!」
「んー!」
「んー!じゃないの!戻りなさい!!」
「やだ!」
細い黒髪をなびかせて、ゴミ山を越えようとよじ登り始めたシビュラを止めようとした時、
「捕まえた」
「にゃーーー!!」
山の上から滑り降りてきた影にシビュは捕まえられ、高い声で叫んだ。
「にゃー!!やー!!」
「シビュラ、スカーレットさん困らせちゃダメだ」
「やーー!はなせーー!!」
クロロ君にしっかりホールドされたシビュラはそれ以上暴れることもできずに叫ぶだけになっている。
「うー、うー、はなせー」
しかし、叫んでも意味がないことはシビュラもわかっているらしく、離せと言いながらもクロロ君の背中に手を回してしがみついている。
「今日は何の喧嘩?」
3年前よりずっと成長したクロロ君、その微笑みも更に大人びたような感じがする。子供の成長恐ろしいです。
「仕事に行くから……お留守番って言ったらシビュラが怒っちゃって」
こら、と改めてシビュラの頰を叩くと、シビュラは涙目で呟く。
「……わたし、おかあさん、こまらせてないもん」
「ん、何て?」
呟いた言葉はクルタ語だったから、クロロ君は首を傾げた。
「シビュ、クロロ君の方の言葉で喋って」
「わたし、こまらせてない」
言い直したシビュラに私は首を傾げてみせた。
「うーん、めっちゃ困ってるけどな私」
「大人気ないな、スカーレットさん」
「えぇ……」
ちゃんと伝えるって大事だと思うけどなぁ。
私はふぅ、と息を吐くと、クロロ君に抱かれたシビュラの目線の高さまでしゃがむ。
「シビュラ、今回の仕事は大事大事なの。シビュラの生き死にも関わる仕事」
「いきしに?」
「死ぬかもしれないってこと。でもおかあさんが帰ってこなかったことある?」
「……ない」
「だから大丈夫、ね?」
仕事に行こうとするとシビュラが怒って暴れるのはいつものことだった。
けれど、この日に限ってシビュラが泣き出したのは、彼女自身も何かを感じていたからかもしれない。
171 「何度も何度も夢に見ては後悔と悲しさと怒りと憎悪で心がいっぱいになるんだ」→←269 「母とクロロ」
257人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
レン(プロフ) - このシリーズ3周するくらいとんでもなく面白かったです!!!!!更新停止なのは悲しいけどいつまでも待ってます!ほんとにこの作品大好きです!!!!! (1月28日 21時) (レス) @page34 id: d242f3e9c7 (このIDを非表示/違反報告)
アロン(プロフ) - ついにキメラアント編っ!更新停止になっちゃってるけど、また更新再開してくれると嬉しいです! (2021年8月26日 13時) (レス) id: ed0e3e5242 (このIDを非表示/違反報告)
まや(プロフ) - このシリーズめっちゃくちゃ好きです!更新待ってます!! (2021年2月1日 8時) (レス) id: f151b0ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
Kan - 更新楽しみにしてます(^_^)ノ (2020年9月19日 23時) (レス) id: 807bcc086e (このIDを非表示/違反報告)
勿忘草 - フレンチトースト頬張るふぇいたん可愛すぎる!!! (2020年6月5日 21時) (レス) id: a69079c5f6 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:藤原 黎明 | 作成日時:2019年8月7日 21時