268 「私と母」 ページ22
【スカーレットside】
腕に熱くて重いいきものを抱いて、私はごみ山のてっぺんに座っていた。
風が強いこの日は、ゴミの発酵のせいで常にする異臭と蒸し暑さが吹き飛ばされたようで、心地よい。夕日の光が金髪に反射して眩しかった。
「……もう後戻りできないなぁ」
腕に抱かれたこのいきものは私の娘である。小さくて、熱くて、よく泣いてはばたばた動く。この子が産まれたのはつい先月のことだ。父親は消えた。
私はつくづくバカだった。
クルタ族の掟に縛られることが嫌で故郷を飛び出して、普通の仕事では人間に馴染めなくて、結局暗殺者になって、色々酷いことして、流星街に雇われて、今。
「産んでごめんね」
ぷにぷに頰を突っつくと、娘は小さな手をゆらゆら動かした。そんな動きじゃ私の手は捕まえられないのだ。ざーんねん。
「指?指掴みたい?……ふふふーん、残念、ほら、掴んでみ?……はっはー、遅いな動きが」
指で追いかけっこをすると、子供は不満げにあう、と声を出した。
「ねー、早く大きくなってよ?大きくなって強くなってよ?じゃないと私、仕事に行けないし」
私はこの子の、一応母親だ。
何で「一応」かっていうと、私には母親の資格が無いからだ。
この子もかわいそうだ、私なんかの身勝手に付き合わされて、勝手に産まれて来させられて。
その罪悪感からか、私が単に最低なのか、この子には愛情が湧かない。つくづく酷い人間だと思うけど、これが私なんだから仕方がない。
ため息をついて、ふと人の気配に気が付いて後ろを見る。少し視線を下に動かすと、小さな(といっても娘よりはもちろん大きいけど)頭がぴょこりとゴミの影から見えた。
「……あ、バレた」
「私に気付かれずに近付こうなんて、100年早いよ。ーークロロ君」
照れたように笑って、クロロ君はゴミ山を登ってきた。
この子は流星街のたくさんいる子供たちのうちの1人で、私にとっては特別な子だ。
「いなかったから探してたんだ。この前借りた本、返しに来た」
「もう読み終わったの?流石、流星街いちの読書家少年」
クロロ君は私の隣に座ると、娘の頰に指を滑らせた。
「おれも抱っこしたい」
「ん、どーぞ」
「わ……重くなった、すごいね」
新鮮に驚いているらしいクロロ君に頷いて、その黒髪を撫でる。娘と同じ色だ。
「オレはいいから、シビュラのこと撫でてやりなよ」
「えー」
「……まだ愛情湧かないの?」
クロロ君が私の顔を覗き込んできた。
幼かった彼だけど、異常なまでに聡くて賢い子供だったから、私の相談相手のようなものだった。
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レン(プロフ) - このシリーズ3周するくらいとんでもなく面白かったです!!!!!更新停止なのは悲しいけどいつまでも待ってます!ほんとにこの作品大好きです!!!!! (1月28日 21時) (レス) @page34 id: d242f3e9c7 (このIDを非表示/違反報告)
アロン(プロフ) - ついにキメラアント編っ!更新停止になっちゃってるけど、また更新再開してくれると嬉しいです! (2021年8月26日 13時) (レス) id: ed0e3e5242 (このIDを非表示/違反報告)
まや(プロフ) - このシリーズめっちゃくちゃ好きです!更新待ってます!! (2021年2月1日 8時) (レス) id: f151b0ddd6 (このIDを非表示/違反報告)
Kan - 更新楽しみにしてます(^_^)ノ (2020年9月19日 23時) (レス) id: 807bcc086e (このIDを非表示/違反報告)
勿忘草 - フレンチトースト頬張るふぇいたん可愛すぎる!!! (2020年6月5日 21時) (レス) id: a69079c5f6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:藤原 黎明 | 作成日時:2019年8月7日 21時