ご飯 ページ26
このお話の続き
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1度家に帰った私は、小洒落た服をハンガーにかけてベッドにダイブした。
アフレコの時はいつもラフな格好で行くから、どうしても家に帰ると気が抜けてしまう。
トートバッグの中から覗く台本は、来期から始まるアニメの台本と映画の吹き替えの台本。
そろそろ、仕事が立て込む時期が来る。
だから今日の良平さんとのご飯は、これからの活力になる…はず。
毎年周期的に来るんだよね、この時期。
良平さんは良平さんで忙しい時期、私は私で忙しい時期がある。
「それ乗り越えたら早いんだけどなぁ…」
ぼそ、と言葉をこぼしてみた。
だけど誰にも届く訳でもなくて。
…時々、思うことがある。
そろそろ2人していい歳だ。
結婚、は…まだなのかな…。
「Aお待たせ」
「あ、良平さん」
行きつけのイタリアンレストランの前で良平さんと落ち合う。
いつものハットにサングラス姿はやっぱり様になっている。
かくいう私もマスクとサングラスをして待ち合わせに来ていた。
お店に入り、いつもの個室に通される。
ここはレストランと言っても庶民的で落ち着いた雰囲気で、同じ業界の人にも人気な店だ。
「良平さん何食べる？」
「今日は魚かなー…」
「じゃあ私はパスタにしようかな」
ちらり、と目の前に座る良平さんを伺うと、真剣にメニューを見ていて、何度も来ている店なのに悩めるって素敵だな、なんて。
私はケッカソースにしようと決めて、良平さんのことを待つ。
昔はこの2人きりの状態を写真に撮って自慢しちゃいたい、なんて思っていたこともあったけれど、今ではもうそんな感情はない。
私に被害が来ても別に問題は無いけれど、良平さんに何かあったら大変だ。
自分のためじゃなく、良平さんのために。
そう思うようになってから、自慢したいという欲は消えた。
「決めた。俺これに……A？」
「あ、ううんなんでもない」
考え込んでいたことがバレたのか、コツンと額に指が置かれる。
「悩み事？」
「大したことじゃないよ。ただ、忙しくなるからどうしよう、って」
「Aなら大丈夫。ダメだったら俺んとこ来な」
「わー…イケメンだ…」
「はは、なんだそれ」
そのまま頭を撫でられ、良平さんの手が私から離れた。
少し寂しい気もするけれど、今はとりあえずご飯だ。
大丈夫の言葉が聞けたから、もう満足。
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作者名：むぎ | 作者ホームページ：
作成日時：2021年9月28日 23時
