入学編 第八話 ページ10
秋夜が昨日使用した冷却魔法は、昨日、一色愛梨と十七夜栞に軽く説明した異能『九つの世界』の『ニヴルヘイム』グレートダウン版ニブルヘイムの更にグレートダウンした版を使った。しかし、この力を公にするのを極力避けており、学校で沓子と水波以外の前で使う気はなかった。
「確かに出来るが、何故俺なんだ？吉祥寺。側から見れば、俺はただの普通科の人間だが」
吉祥寺の聞きたい話を強引に逸らして、秋夜は決定的な理由を彼らに、改まった口調で突きつけてやった。
「先程述べた通り、自分は普通科です。普通科の人間が専科の人間を拘束するなど、普通は不可能です。自分は可能ですが、専科の生徒が普通科の、しかも一年生に取り押さえられたなんて事実は後の禍根となる。生意気な普通科に対する、専科の報復行為も十分考えられることです」
「おいお前！ 専科を馬鹿にするな！」
「静かにしなさい」
秋夜の遠慮のない言葉に生徒会メンバーの男子(多分二年生あたり)が噛み付くが、女子生徒(これも多分二年生)が諌めた。
「目の敵にされるのは御免ですし、当たり前の話ですが怪我をしたくありません。最初に述べた通り、忙しいので、お断りいたします」
「しかし……」
「もういいだろう」
渋る風紀委員長を、水尾佐保生徒会長が止めた。
「神零君。時間を取らせて悪かったね。でもこれだけは言わせて」
「？」
「昨日のようなことは一年生の間ではよくあることなんだけど、二年生と三年生はそこまで専科と普通科に溝があるわけではないんだよ」
秋夜は瞬きを一つすると、先ほど噛み付いていた男子生徒をジロッと見た。
秋夜の鋭い目付きと眼光に、男子生徒はビクッ！ と肩を震わせていた。
「二年生と三年生の専科の中にも普通科を侮り、嘲る人間は確かにいる。普通科は自分には才能が無いのだと劣等感を抱いて諦めてしまっている人間もいる。私はそうした人間の狭い視野や考え方を改めて、互いに切磋琢磨する学校づくりを目指しているんだ」
「……ご立派な考えだと思います」
「君の成績では測れない才能とその優れた思考は、きっとこの学校に良い風を吹かせてくれると思っている。風紀委員にできないのは残念だけど、何らかの形で君の力が必要になることもあるかもしれない。その時は、また話をさせてくれないかな？」
「……前向きに検討いたします」
一礼をして、生徒会室を後にする。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 9人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：*0608 | 作成日時：2021年9月26日 11時
