人生万事塞翁が虎 2 ページ4
「一文無しですので餌はありませんが、適当に網を仕掛けていれば獲れるかと」
「其れはすまなかった。人に迷惑を掛けないクリーンな自 殺が私の信条だ。なのに、君に迷惑を掛けた時点で私の落ち度…」
青年の言葉の途中で、腹の音が響く。青年は自分の腹を擦る。
「奇遇ですね。私も空腹です」
「財布は…流されたようだ」
「不運ですね」
「全くだよ」
「こんな所におったか唐変木！」
向こう岸から男性が叫ぶ。夕日で眼鏡が反射している。とても眩しい。
「お知り合いですか？」
「彼は私の同僚なのだよ。彼に奢って貰えばいい」
「彼の頭…、財布の紐は固そうですけど」
「ふふ。はっきり云うね。大丈夫さ。ああ見えても優しいからね。きっと奢ってくれる。何が食べたい？ 遠慮は要らないよ」
「あっさりとした…、茶漬けを」
大きくなる怒鳴り声に掻き消されないように、はっきりと強く云った。
お金は後で返せばいい。名前も職業も知っているので何とかなる。取りあえず、この空腹を何とかしなければ…。
「餓死寸前の少女が茶漬けを所望か。いいよ、国木田君に三十杯位奢らせよう！」
「餓死寸前でもそんなには入りません。食べられても十杯が限度です」
「ははっ。面白い。所で、名前を名乗っていなかった。私は太宰治だ」
「中島Aです」
「では、Aちゃん行こうか」
Aは、手招きした太宰の横を歩き出す。
前世でも面白いと云われただろうか。其処まで覚えていない。思ったことをはっきりと云ってしまう性格は昔からだ。此れでよく人間関係が拗れた。何度校長室に呼ばれたことか。
河川敷を登って振り返る。
夕日が沈んでいく。昼と夜が曖昧になる。
黄昏時。人間も、動物も、存在するなら妖も、全ての者が活動する数時間。川の透明な水が、夕日の赤と夜の始まりを告げる暗い青を混ぜる。
どくりと体が疼いた。
暖簾をくぐり、席に着いて数分後、熱々のお茶がご飯掛かっただけの、本当にシンプルな茶漬けが出てくる。
「頂きます」
軽く混ぜるとご飯がふやけて柔らかくなる。久方の食事に胃が驚かないように、先ずはお茶を啜る。濃いめに淹れてあるお茶で、少し体の中から暖かくなる。
漬物を乗せてご飯と一緒に口に流し込む。ふやけたご飯が噛めば噛むほど甘みが出て、しゃきしゃきした漬物のしょっぱさとよく合った。
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まゆ - 面白かったです^_^続きが、すごく気になります^_^これからも、頑張って下さい^_^ (2017年11月14日 14時) (
レス) id: 8c0a96a096 (このIDを非表示/違反報告)
緩奈 - 咲音さん» うちの学校でも結構流行ってますね。咲音さんも気をつけてください (2017年2月8日 20時) (レス) id: 9261dd0ed9 (このIDを非表示/違反報告)
咲音(プロフ) - コメントありがとうございます！ 楽しんでいただけてとても嬉しいです。風邪など流行っていますので、ご自愛ください。 (2017年2月4日 11時) (レス) id: 659bbac276 (このIDを非表示/違反報告)
緩奈 - 続き楽しみに待ってます！頑張って下さい (2017年2月2日 20時) (レス) id: 9261dd0ed9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：咲音 | 作成日時：2016年12月24日 15時
