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シンク脇に腰を預けたえおえおさんは、ふと思い出したような顔をしてからこっちを向いた。

「さっき、Aさんの慌てた様子初めて見ました」
「え?そうですか?」
「うん。いっつも冷静で、落ち着いてるから」

えおえおさんは何気なく言ったのだろうが、その言葉は少し重く響いた。
いやいや、何を悲しく思ってるんだ。
こんなのいつものことでしょ。

「……そうですよね、私、怖いってよく言われるから……」

なんてことない。
なんてことはないのだけど、ほんの少しだけ喉が詰まるような感覚は消えない。

「え?怖いの?」
「えっ……」

予想に反した反応に、思わず顔を上げる。
キョトンとした顔のえおえおさんが、またしても首を傾げながらこちらを見ている。

「俺は怖いなんて思ったことないけど……」

その一言だけで息苦しかった喉元にスッと風が通っていく。
体を纏っていた冷たく暗いモヤが、温かい空気へと変わっていった。

怖くない。
そんなこと、初めて言われた。

「……目が怖いってよく……」
「あー、Aさん目力ありますよね。俺いっつも眠そうとか言われるから羨ましいけどなぁ」

体を前に倒して顔を近づけてくる。
思わず体が少し引けてしまったが、後ろは壁だ。
マスクの中に熱が籠もるのがわかって、逃げ道のない体の代わりに目を伏せて直視を避けた。

「……えおえおさんのほうが優しそうな目で羨ましいですよ」
「そう?……まぁ、俺の目なんて誰も見ないんですけど」

頭上から落ちる影がふっと去ってえおえおさんが離れていくのがわかった。
誰も、というのは多分視聴者のことなんだろう。

「……私達は見てますよ」

マスクを引き上げて赤くなっているだろう顔を隠し、精一杯目と目を合わせてそう言うと、えおえおさんはその目を少し細めて口角を上げた。

物音がして入り口のほうに目を向けると、階段を上ってきたFBさんがヒョコリと顔を覗かせた。

「あ、いた。何してんの」
「……別に。洗い物してた」

FBさんは私の方をチラリと見て会釈し、またえおえおさんに向き直る。

「もうちょっとしたら次撮るで」
「え、俺まだ食べてないんだけど」
「は?何してたん」
「いや洗い物だって」

会話しながらキッチンを出ていったえおえおさんは、姿が見えなくなる直前に不意に振り返り、ぴょこぴょこと人差し指を揺らしながら唇だけを動かした。

──お大事に。

多分、そう言ったと思う。

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せとか(プロフ) - けいさん» コメントありがとうございます!お言葉大変嬉しいです!なかなか更新できず申し訳ないですが引き続きよろしくお願いします! (2021年5月27日 20時) (レス) id: 2f7108b07b (このIDを非表示/違反報告)
けい(プロフ) - 落ち着いた雰囲気と話の流れがとても好きです!四人の台詞や行動も読んでいて楽しく、主人公の苦悩もこれからどうなるのか楽しみです。かげながら応援しております。 (2021年5月26日 1時) (レス) id: 24cc8291a8 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:せとか | 作成日時:2021年3月24日 19時

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