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ちらちら、また、ちらちら。
撮影が始まる前も、始まってからも、終わった後も、次の撮影が始まってからも。
何度も、何度も。
えおえおさんからの視線を感じる。
目が合うと慌てて逸らされて、また少しするとちらちら。
なにか付いてるだろうかと鏡を見に行っても目立った異変は見つからない。
ちらちら。ちらちら。
視線はまだ続く。
ああ、気になる!
こんなんじゃこっちも集中できないしえおえおさんにもよくない。
捕まえて、なにか用があるのか聞いてやる。
撮影の合間にトイレに立ったえおえおさんを半ば待ち伏せするように廊下に立つ。
出てきたえおえおさんは私がそこにいることはまったく予想していなかったのか、少し体をビクッとさせた。
「……Aさん、お手洗い?」
「……まあ、そんなところです」
そんなところではないだろう、私。
道を譲るように脇に寄っても入らない私を不思議そうに見るえおえおさんの視線を感じる。
「その……えおえおさんが……なにか私に用があるんじゃないですか」
「え?」
「こちらを……なにか、やたらと気にされていたようだったので」
ああ、もうちょっといい言い方はないのか、なんて思いもしたけどこの際なりふり構ってられない。
驚いたような顔でこちらを見るえおえおさんは少し黙ってしまってから、えぇと、と悩むような素振りを見せて口を開いた。
「……あの……ほら、美味しい飲み物の話とか、したいなって思って」
「え、飲み物?」
「そう、さっき飲んでたやつとか好きなら他にもおすすめいろいろあるし、逆にAさんが好きなのあったら教えて欲しいなって……」
「……ふ、ふふっ……」
「えっ、」
なんだ。そんなことだったのか。
それでこっちをそんなに気にしてしまうえおえおさんも、そのことをここまで気にしてしまう自分もどっちもおかしくて思わず笑い声が出てしまう。
「そ、そんなに笑わなくても」
「だって、そんなことで……あははっ」
ちょっと拗ねたようなえおえおさんには悪いけど、笑いが止まらない。
「……ひどい」
「あはは、ごめんなさい、もうやめます。でもそれなら、いつでも言ってください。今日じゃなくても、ラインでもなんでも」
「ライン……」
えおえおさんは目を瞬かせ、ポケットから取り出したスマホを眺めて頭をコテンと横に倒した。
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せとか(プロフ) - けいさん» コメントありがとうございます!お言葉大変嬉しいです!なかなか更新できず申し訳ないですが引き続きよろしくお願いします! (2021年5月27日 20時) (レス) id: 2f7108b07b (このIDを非表示/違反報告)
けい(プロフ) - 落ち着いた雰囲気と話の流れがとても好きです!四人の台詞や行動も読んでいて楽しく、主人公の苦悩もこれからどうなるのか楽しみです。かげながら応援しております。 (2021年5月26日 1時) (レス) id: 24cc8291a8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せとか | 作成日時:2021年3月24日 19時