2 ページ2
「じゃあ全世界のみんな、ばーい！」
「ばいばーい」
「…………はい、オッケーでーす」
「はーい」
一気に動き出す"こちら側"。
カメラの前の四人が楽しそうに騒ぐのを、静かに音を立てないように見ていた私達は一転、片付けに慌ただしく駆け回る。
今日は特に料理動画だったから片付けものも多い。
「次すぐ撮ります？」
「あーいや、一旦休憩にしましょか。昼の時間だし」
「了解っす」
撮影中は口を閉じていた同僚とFBさんがそういうと、重ねてどこからともなく了解の声が上がり、撮影スタッフたちは機材を一旦わきに避ける。
さて、私の仕事はここからだ。
「私、洗い物やってきます。貸してください」
ボウルや包丁をまとめていたえおえおさんに向けて、手元のものを渡すよう手を伸ばす。
「ああ、いや、次すぐ撮らないなら時間あるから僕洗ってきますよ」
「いえ、休憩時間なんだから休んでてください。私みたいな雑用スタッフがなんのためにいると思ってるんですか。私は撮影中は暇なんですから」
あ、しまった。
また冷たい言い方になっちゃったかな。
「あー……じゃあ、お願いします」
えおえおさんはちょっとためらうようにボウルを私に手渡す。
自分の口調に嫌気がさして、顔を隠すように目線を下げ、口元のマスクを直してから洗い物を持って階段を上っていく。
──私はどうも、言い方がつっけんどんになってしまう。
話したくないわけじゃない。
嫌いなわけじゃない。
むしろこの四人のことを見ているのは楽しくて好きだ。
その四人を支えられるこの仕事も大好きだ。
でも、それを素直に表せない。
言葉のトーンに乗せられない。
顔半分を隠したマスクはとっつきがたさを助長させ、今までに何度も誤解されてきてしまった。
でもだめなのだ。
このマスクは私の防具で、おいそれと取るわけにはいかない。
世間がみんなマスクをする時代になったのがせめてもの救い。
もっと仲良くしたいんだけど。
……せっかくああ言ってくれたんだから、一緒にやろうとか言えばよかった。
誰もいない台所でスポンジをもぎゅもぎゅと泡立てる。
「あーーー失敗した……」
はぁ、とつくため息は誰にも届かない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 74人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
せとか(プロフ) - けいさん» コメントありがとうございます！お言葉大変嬉しいです！なかなか更新できず申し訳ないですが引き続きよろしくお願いします！ (2021年5月27日 20時) (
レス) id: 2f7108b07b (このIDを非表示/違反報告)
けい(プロフ) - 落ち着いた雰囲気と話の流れがとても好きです！四人の台詞や行動も読んでいて楽しく、主人公の苦悩もこれからどうなるのか楽しみです。かげながら応援しております。 (2021年5月26日 1時) (レス) id: 24cc8291a8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：せとか | 作成日時：2021年3月24日 19時
