35. 1日目-6 (a視点) ページ35
FBの家を出て電車に乗り、自宅の最寄駅につく頃になっても、Aからの返信はおろか既読すら付かなかった。
まさか外に出てなにかあったんじゃないだろうか。
東京慣れしてない若い女なんかあらゆるものの格好のターゲットだ。
急ぎ足でアパートへと向かい、鍵を乱暴に開けて玄関へと進むと家を出たときと同じ様にAの靴があった。
安心すると同時に、じゃあなんでなんも反応ないんだ、また寝てるのか、と考えながら顔を上げると、家を出たときとは明らかに変わっているところが目に入った。
――作業部屋の扉が開いている。
ヒュッと血の気が引く。
同時に、"血の気が引いた自分"に対して疑問が湧いた。
俺は4人の中でもそこそこオープンに活動しているほうで、家族のみならず職場の一部の人も俺の活動を理解してくれている。
作業部屋には俺達の活動を示すあれやこれやが詰まっているわけだが、それを誰かに見られたところで大した問題ではないはずだ。
今更、なんで血の気が引く?
自分の中の反応に折り合いがつかないまま、靴を脱いで開いた部屋を覗くと予想通りAがいた。
本棚の前の床にこちらに背を向けて座り込んで、献本で貰った俺達の本を床に大量に広げながら。
「A?」
名前を呼ぶとビクリと肩を揺らして振り返った。
その顔には困惑の表情が浮かんでいる。
「……あろま」
Aは10年以上前から何度も口にしている俺の名前を呼ぶ。
しかし今日ばかりはその単語は近所のお兄さんを、初恋の人を、東京に押しかける動力になるほど執心の相手を示す呼び方ではなかった。
"M.S.S Projectのあろまほっと"を呼んでいる。
「……なんだよ」
「あ、ごめっ、勝手に入って……勝手に見てっ……そのっ……」
「……別にいいけど」
苛立ちが隠せない。
俺は何をこんなに苛ついているんだ?
「……こういう活動してたなんて知らなかった」
「言ってなかったからな」
俺を見上げる顔は、変わらず"あろまほっと"を見ている。
違う。
お前が俺を見るべきはその顔じゃないだろ。
いや、何言ってんだ。
般若面の俺も、素の俺も。
ひっくるめて俺だろうに。
俺は何に苛ついてるんだ。
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せとか(プロフ) - 碧鳴さん» 碧鳴さん前作に引き続き今作も読んでいただきありがとうございます。前作に増して特殊設定ですが楽しんでいただけると幸いです。 (2020年7月10日 13時) (レス) id: 05c1f5cb14 (このIDを非表示/違反報告)
碧鳴(プロフ) - 新作…!!続き楽しみにしております (2020年7月10日 10時) (レス) id: e2ccf18f81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:せとか | 作成日時:2020年7月8日 18時