検索窓
今日:6 hit、昨日:3 hit、合計:21,014 hit

本当は辛くて   其ノ弐拾 ページ24

「俺の前では泣くのを我慢していただろう?
 
 ・・・俺を不安にさせないために」

「・・・」

「俺は言葉で人を慰めるのは苦手だ。・・・だから、」

と、義勇がAの前で両手を広げた。

「泣きないならここで泣け」

しばらく黙っていたAの目から、大粒の涙が溢れ・・・。

「・・・義勇!」

気がついた時には、義勇の胸に飛び込んでいた。

「錆兎が、私の目の前で・・・!」

「Aっ。辛かったな・・・っ」

Aの頭を撫でる義勇も、いつの間にか涙が溢れていた。


ーー静かな山に、響く二人の泣き声。


その時・・・。

 バタン!

勢いよく戸の開く音がきこえ、鱗滝が出てきた。

そして傷だらけの二人を見て、その場に立ち尽くした。

「義勇、A・・・」

二人はその声に振り向いた。

「・・・鱗滝さん!」

と、鱗滝が駆け寄り、二人を包み込んだ。

「よく・・・よく、戻って来てくれた」

ふと、鱗滝はAの腕の中にある羽織を見つめた。

「錆兎は・・・そうか。

 さあ、中に入って休め」

鱗滝にうながされ、義勇とAは家に入った。



その日の夜・・・。


義勇と鱗滝は囲炉裏を囲んで座っていた。

Aは疲れているらしく、鱗滝のすぐ側で寝てしまった。

鱗滝はAにそっと布団をかけてから、義勇と向き直った。

「すみません。俺は一番に怪我を負わされて、一匹も鬼を倒せませんでした」

「いいんだ、そんなことは。・・・大きな怪我じゃなくてよかった」

義勇は鱗滝から湯のみを受け取り、一口飲んだ。

「Aが、錆兎の死に際を見たそうです。・・・目の前で」

「そうか・・・。Aが、」

鱗滝が眠っているAの頭を撫でた。

「それもあってか、Aが刀に対して恐怖心を見せるようになったんです。

 玉鋼を選ぶ時も・・・」

その瞬間、風が吹き抜け、ろうそくが揺らめいた。

「もしかすると・・・」

鱗滝は遠くを見た。



ーー「もしかすると、Aはこれから、刀を持って戦えないかもしれない」




・・・Aは雪の中を歩いていた。

(ここは・・・。夢の中・・・?)

そう思った時、目の前に覚えのある後ろ姿が見えた。

「錆兎・・・?」

とっさに声をかけたが、錆兎は振り返らず歩き出した。

「待って・・・。待って!錆兎!」

どれだけ呼んでも、遠くなっていく背中。

「錆兎・・・!」

その瞬間、Aは思わず手を伸ばした。

20話突破です。 →←夕顔       其ノ拾玖



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.6/10 (31 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
47人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

レベ - 占ツクの作品で感動したのこの作品が初めて!錆兎と結衣←(わたしの夢主の名前です)来世とかキメツ学園とかで結ばれますように……!! (2022年11月16日 15時) (レス) @page24 id: ea3111d08d (このIDを非表示/違反報告)
組紐屋の夜桜 - ゆりさん、コメありがとうございます!ぜひ!落ち着いたら見てみますね。 (2022年3月3日 23時) (レス) id: 89f56691f5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - 組紐屋の夜桜さん、良かったら私の作品を見てみてください。 (2022年2月28日 17時) (レス) @page3 id: b7d6d649b3 (このIDを非表示/違反報告)
組紐屋の夜桜 - ありがとうございます!励みになります! (2021年10月8日 21時) (レス) id: 89f56691f5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆり - そうですね😃頑張ってください。応募していますね😃 (2021年10月6日 23時) (レス) @page3 id: b7d6d649b3 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:組紐屋の夜桜 | 作成日時:2021年8月27日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。