色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ10)

今日:7 hit、昨日:7 hit、合計:1,601,064 hit

４０ページ10

家に帰ったオレは、タイトルはそのまんま『ミルクティー』の新しい歌詞をノートに書き直した。

きっともう、これを歌う事は無いんだろうなぁ...と思いながら。
サヨナラだ、と自分に言い聞かせながら。

・

花嵐堂に行かない日曜日を、何度か過ごした。

学校では板書を書き間違ったり、生徒が音読を終えてる事に気付かず窓の外を眺めてたり、授業を間違えて別のクラスに行ってしまったり。
「先生、どうしたの？」と訊いて来る生徒も居た。
「何かあったの？」と、心配してくれる生徒も居た。

「先生だって人間だもの」と返せば、生徒達は納得してんのかは分からないけど「そうだねー」なんて笑ってる。

アイツに会えないだけで、こんなに調子が狂うとは思ってなかった。

「......勘弁してよ...」

何度目かの日曜日、一人の部屋で頭を抱えた。
このまんまじゃダメだな、と立ち上がって車のキーを持って家を出る。

とりあえず場所を変えたくて、ばーちゃんちに行って学生時代に読んでた漫画をゴロゴロしながら読んだ。
何冊も、何冊も。
そんなオレを見たばーちゃんが「大きな子供だねぇ」なんて笑うから、「オトコはいつまでだって少年なの」と返す。

「カズ君、お茶にしましょ」

ばーちゃんに誘われて、ダイニングへ行くと用意されてるロイヤルミルクティー。

「ねぇ、ばーちゃん。オレ、コーヒーの方が好きって何度も言ってんのに...」
「あら？まだ少年のカズ君には甘い紅茶が似合うでしょ？」
「...意地悪言うねぇ」

まだ若々しいばーちゃんは、昔からオレの事をからかうのが好きな人。

「あっま...」
「お口だけ大人になってるのねぇ」
「オトナになってるのはお口だけじゃないけどねー、見る？」
「まぁ下品な子。誰に似たのかしら？」

ウフフ、と笑うばーちゃんとオレも一緒に笑う。

「ねぇ、カズ君。暇ならお願いがあるんだけど」
「なぁに？」
「お米が無くなりそうだから、買って来てくれない？」
「うん、良いよ。重いもんね」
「いつもは宅配して貰ってるんだけどね」

じゃあ今回も宅配して貰いなさいよと思ったけど、部屋を書庫にさせて貰ってる恩もあるから何も言わないでおく。

甘い紅茶を飲み干して、オレはばーちゃんちを出て指定された米屋さんでこれまた指定された米を5キロ買った。

その帰り道。
重い米を抱きながら歩いてたオレの目に入った建物。

「...店か？」

壁に蔦の葉が這ってる、小さな平屋。
門扉の向こうには、ドアが開け放たれてる。