色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ29)

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目をギュウっと瞑って、オレの腕をパシパシ叩いて来るから唇から指を離してやる。

やっぱりちょっと、不満そう。

「オレが言いたいのは10年はそれだけ長い時間なんだよ、ってコト」
「...うん...」
「それで無くても、オトコの方が寿命短いのにさぁ」
「...寿命...？」
「オレは既にお前より10年も長く寿命を使ってしまってんのよ」

結城の髪を指にクルクルと巻き付ける。

髪に触れるのがどういう意味か、解りながらクルクルと。

「オレはね、確実にお前より先に逝く。お前を残して、先にね」
「...え...先生...？」
「何年後の話だよって思うよな」
「.....」
「オレも思ったよ、何考えてんだ？って」

そりゃ大野さんにも呆れられるよね。
何で死ぬ時の事、考えてたんだろうね。

「10も歳が上のオレが傍に居たら、結城をいつか1人にしてしまうだろう...って」
「...あの...え...？」
「オレはいつからか、お前との未来を想像しては杞憂していた」

指先の髪を見詰めながら話す。
毛先がクルンとオレの方を向く。

「お前が死ぬまで幸せで居られるのは、歳の近いオトコと一緒になる事だろうと...そう思ったから、お前から離れるコトを決めた」

顔を上げると、やっぱりまだ泣いてるキミと目が合って

潤んだ目に自分が映って、妙に照れ臭かった。

「だけど結局、オレの頭ん中からお前が居なくなるコトは無かった」
「.....」
「離れようと決めたのは自分なのに、どうしても心が言う事を聞いてくれなかった」
「.....」
「好きな本読んでても、雑念だらけで集中できねぇんだよ。授業でもしょーもないミスして生徒にからかわれた」

いくつになったって、自分の想いを伝える時は息苦しくなる。

そんなの、大人だからとか子供だからとか、関係無い。

「オレのこの状態に、名前があるならそれは...」

キミの目に、オレだけを映して欲しいと願った。

「『恋煩い』だ」

恋は病だと、誰が最初に言ったんだろう。

恋は熱病だ。

息苦しくて、身体が熱くて、頭が朦朧として、眩暈と動悸に襲われる。

オレは恋を、煩った。

「...先生...」

畳に座り込んでるキミが、オレを見上げる。

「...恋、煩い...？」

譫言のような言葉に何も言わずに頷くと、キミは首を傾げた。

「...どーゆーコトですか...？」
「え？」
「恋煩いって...それはどーゆーコトですか？」

それを訊く所も、キミらしい。

どんな時でも、キミはとことんキミらしい。