色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ17)

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ある事について考えないようにするというのは、難しい。

『考えない』と思ってる時点で、そのある事について考えてるからだ。

他の事に気を向かせるのが一番だと思って、本を読んだ。
仕事以外の時間は、だいたい本を読んでいた。

だから勿論、日曜はAKUTAGAWAへ行く。

何となく違うものが読みたくなって、店の本棚から写真集を取り出してみた。
有名な写真家のポートレート集。

「珍しいですね」

コーヒーを運んで来たオーナーに言われ「気分転換...かな」と応えると、「それならこれもオススメですよ」と植物図鑑を薦められた。
薦められるまま、それを手にして色んな植物を眺める。
写真を見て、活字を追って、また写真を見て。

何故だか、ハァ...と溜息が漏れてコーヒーを飲んだ。

どのくらいの時間が経っただろう。
お腹が減って、サンドイッチを頼んでそれも食べ終わった頃に今度は食器を片付けに来たオーナーがオレの顔を見て不思議そうな表情をした。

「ん？何？」
「あ...いえ。今日ってここで待ち合わせですか？」
「...え？」
「さっきから何度も入口を見てはるから、誰かを待ってらっしゃるのかと思って」

言われて、胸を殴られた気分になった。

オレ、待ってんの...？

何を？誰を？
嘘でしょ、特に興味も無い植物図鑑なんて読んでちょっと植物の知識なんかを頭の中に詰め込んじゃう事に必死になってたのに。
必死で、他の事なんか考えないようにしてたのに。

......必死で、『考えない』ようにしていたのに。

「違いましたか、ごめんなさい。もしお待ち合わせだったら席にご案内せなあかんなと思ってたので」
「あ...あぁ、ううん！ありがと！まぁ...待ち合わせでは無いんだけどね」

オーナーは何かを察したような顔で、コクリと頷き離れて行った。

もう駄目だ。
図鑑なんて、開く気にすらなれなくなった。

オレは考えてたんだ。

アイツはまたオレに会いに来るんじゃないか？って。
そしたらオレは、どんな顔をしたら良いんだろう？って。
先週あんな風に言ったくせに、笑っても良いのか？って。

ずっと、頭の一番奥底で考え続けてたんだ。

そして今だって、仕事終わりでアイツが来るんじゃないか？って思ったら動けなかった。
オレが帰ったすぐ後に来るかもしんないじゃんって思ったら、席を立つ気になれなかった。

結局、オレがAKUTAGAWAを出たのは閉店時間だった。

「遅くまでごめんね」

そう言ったオレに、オーナーは「いえ」と微笑んだ。