色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ11)

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何だか、誘われるようにそのドアへと歩いてた。

ソっと中を覗くと、店員らしき個性的な青年が「いらっしゃいませ」と迎えてくれた。

「あ...すみません、ここって何屋さんなんですか？」
「喫茶店ですよ」
「本屋では無くて？」

そう思ったのは、壁際に天井まで届く本棚があったから。
でもよく見たら、その建物の中にはテーブルや椅子が並んでる。

「よろしければ、一休みされて行かれませんか？」

オレが抱えてる米を見た青年が、微笑んだ。

「あー...はい、じゃあそうさせて貰おっかな」
「お好きな席へどうぞ」

促されるまま、本棚の横にあるソファに座って自分の隣に米を置く。

オーダーを取りに来た青年に「これって読んでも良いの？」と本棚を指差すと「もちろんです。本は誰かに読んでもらう為にあるんですから」って返事。

さっきの甘い紅茶とは真逆の、苦いブラックコーヒーを頼んで本棚から一冊選ぶ。
一度パラパラと捲ってから、最初のページに戻って読み始める。

運ばれて来たコーヒーカップは、近くの席に座ってる女性の手元にあるそれとは違うデザイン。
そう言えば、椅子やソファも全部デザインがバラバラだ。

BGMはお客さんが喋る声と、本を捲る音、食器が触れ合う音。

テーブルに置いてたスマホがブーブーと振動したから見てみると、ばーちゃんからの着信。

「もしもし？」

小声で出ると「カズ君、どこに居るの？お米は？」と言われて、慌てて時計を見たらばーちゃんちを出てから三時間も経ってた。

「ごめん！すぐ帰るわ！」

読んでた本を本棚に突っ込んで、米を抱えてレジに行く。
青年に「また是非いらしてくださいね」と、お釣りを渡されて「はい、ぜひぜひ」と頷く。

レジの横にあったショップカードを一枚、手にして店を出た。

そのカードには『読書喫茶 AKUTAGAWA』という店名が書いてある。

「良い店、見っけた」

蔦だらけの壁を見て、思わず笑ってしまった。
だけど、同時に「結城にも教えてやりたいな...」なんて思ってしまって唇を噛む。

ばーちゃんちに帰ったら、「事故ったの？もしかして誘拐された？って心配したでしょ！」と怒られた。

「誘拐って、オレもう三十路のオッサンよ？」

オレが笑うと、ばーちゃんも「そうだったわね」と笑う。

それからオレは、何かの穴を埋めるように日曜はAKUTAGAWAへ通った。

あの店に居れば、何も考えなくて良かったから。
本棚の本を端から順番に読んで、そうやって時間を過ごした。